Alternative Title成体マウス脳室周囲器官の神経幹細胞とミクログリアのダイナミックス
Note (General)type:Thesis
脳室周囲器官は、完全な血液脳関門が存在していないため、血液中の分子を直接受容することで末梢情報を受け取ることが出来る。そのため、脳室周囲器官にはグラム陽性細菌の細胞壁成分を認識するToll-like receptor 2 (TLR2)やグラム陰性菌の細胞壁成分を認識するTLR4を始めとした多くの炎症に関連した受容体が発現しており、脳内炎症やその応答が開始される極めて重要な部位である。しかし、脳室周囲器官における神経幹細胞やミクログリアのダイナミックスについては、ほとんど研究が行われていない。そこで、本研究では成体マウス脳の脳室周囲器官における神経幹細胞とミクログリアのダイナミックスについて調べた。長い間、成体の脳には神経幹細胞が存在していないと考えられてきた。しかし、20年ほど前に海馬と側脳室下帯に神経幹細胞が存在することが報告された。しかし、視床下部や延髄などの脳幹においては神経幹細胞の存在は明らかになっていない。私は、Nestin-CreERT2/CAG-CATloxP/loxP-EGFPマウスやBrdUを用いた免疫組織化学から、脳幹に存在する脳室周囲器官の3部位(終板器官、脳弓下器官、正中隆起、最後野)においてには神経幹細胞マーカーとして知られるNestin陽性のアストロサイト様神経幹細胞とependymal cell layer に存在するタニサイト様神経幹細胞の2種類の神経幹細胞があることを明らかにした。次に、神経幹細胞の分化について調べたところ、脳室周囲器官だけでなく、隣接した脳部位にも細胞を供給しており、その多くはオリゴデンドロサイトであるが、一部はアストロサイトや神経細胞に分化していることを明らかにした。さらに、リポ多糖LPSの腹腔内投与により炎症刺激を与えたところ、オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖が有意に抑制されることが分かった。この結果は、LPSにより誘導された炎症時に脳室周囲器官の神経幹細胞は神経およびグリア細胞による組織再構築の混乱を避けるため、増殖が抑制されたのではないかと考えられる。これらの結果は、成体の脳において神経幹細胞は従来考えられてきたよりも、脳の幅広い部位にまたがって存在しており、脳の修復に関与することが示唆された。ミクログリアは、不要な細胞や変性した神経等を貪食し処理し、脳神経系の保護を行う。また、ミクログリアはサイトカインなどを放出することで多くの細胞に多様な細胞応答を引き起こすが知られ、炎症時のミクログリア活性化の重要性やその動態は非常に注目されている。さらに、神経前駆細胞から放出される血管内皮細胞増殖因子を介してミクログリアの活性化・増殖及び貪食が調整されることが報告されており、ミクログリアと神経幹細胞は相互に影響しあっていることが示唆されている。しかし、ミクログリアの増殖は、脳梗塞やアルツハイマー病などの重篤な病態時にのみ増殖が誘起されると長い間考えられて来た。しかし、私はミクログリアの増殖が脳部位と炎症刺激の強さに依存して起きることを明らかにした。まず、100 μg/ kg LPS投与により脳室周囲器官(終板器官、脳弓下器官、正中隆起、最後野)およびその隣接脳領域においてのみ、顕著なクログリア増殖が誘導された。一方で、1 mg / kgのLPS投与は、脳室周囲器官およびその近傍の脳領域だけでなく、視床下部、延髄および辺縁系を含む広い脳領域にミクログリア増殖誘起した。これらのミクログリア増殖は一時的であり、ミクログリアの密度は3週間以内にコントロールレベルに戻っていた。脳内のミクログリア増殖は、脳損傷やアルツハイマー病、多発性硬化症のような重度の炎症時に誘起されると考えられてきた。しかし、本研究は細菌感染などの弱い炎症時でもミクログリアが増殖することを示したものであり、脳の炎症におけるミクログリア機能についての新たな側面を明らかにした。
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2022-05-09T11:57:37+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション