二重量子井戸における反平行スピンホール流のボルツマン方程式に基づく運動論的研究

• Material Type: 博士論文
• Title: 二重量子井戸における反平行スピンホール流のボルツマン方程式に基づく運動論的研究
• Author/Editor: 石川, 俊也
• Author Heading: 石川, 俊也
• Publication, Distribution, etc.: Hokkaido University
• Publication Date: 2022-09-26
• Publication Date (W3CDTF): 2022-09-26
• Degree grantor/type: 北海道大学
• Date Granted: 2022-09-26
• Date Granted (W3CDTF): 2022-09-26
• Dissertation Number: 甲第15171号
• Degree Type: 博士(工学)
• Text Language Code: jpn
• NDC: 500
• Target Audience: 一般
• Note (General): 近年，電子が持つ電荷の自由度とスピンの自由度の両方を利用し，新奇現象の開拓やデバイスへの工学的な応用を目指すスピントロニクスにおいて数多くの研究が進められている．スピントロニクスでスピン自由度を効率的に利用するためにはスピン偏極の生成が必須である．非磁性体においてもスピン偏極を生成できる代表的な現象にスピンホール効果がある．スピンホール効果は，物質中のスピン軌道相互作用によって，印加電場と垂直な方向に純粋スピン流が生じる現象であり，スピン流は試料端での蓄積によりスピン偏極を生成する．このスピン偏極は磁場をスピンの向きに垂直に印加しHanle 効果と呼ばれるスピンのダイナミクスを測定することで観測されている． また最近になり，擬スピンをエレクトロニクスに応用する擬スピントロニクスについても研究が進められている．擬スピンとは任意の二準位系をスピンと同様にパウリ行列で表した自由度である．擬スピンをもつ系の代表例は原子層グラフェンであり，副格子の擬スピンやバレー擬スピンを活用する擬スピントロニクスが盛んに研究されている．擬スピントロニクスが始まる以前にも二重量子井戸という擬スピン系がすでに研究されていた．二重量子井戸は半導体量子井戸を2 層積層した構造で，2 つの層それぞれに局在する2 状態を擬スピンと捉えることができる． 擬スピンとスピンは数学的にはパウリ行列で記述されるという共通点を持つが， 制御性には顕著な違いがある．スピンは直接電気的に制御することができないが，擬スピンは電子の電荷の自由度に対応するので直接電気的に制御することが可能である．そこで擬スピンを通してスピンを電気的に制御することができれば効率的なスピンの制御を実現できると期待される．そのためにはスピンと擬スピンを結合することが必要である．本研究ではスピン・擬スピン間の結合をもつ二重量子井戸を提案するとともに，その結合を通してスピンの電気的制御が可能であることを理論的に示した．以下に本研究の成果を三項目に分けて記述する． 第一に，二重量子井戸において2 つの井戸のスピン流が逆向きになるようにしてスピンと擬スピンを結合させることを提案した．この反平行スピン流はスピンとともに擬スピンを運んでいる．なぜなら2 つの井戸それぞれに局在する状態を擬スピンの上向きと下向きに対応させると反平行スピン流は擬スピンの第3 成分を持つからである．この反平行スピン流では擬スピンの第3 成分の大きさを変えるとスピン流の大きさも同時に変化する．この機構を活用してスピン流を擬スピンを通して電気的に制御することが本研究の提案である．さらに本研究では，この反平行スピン流を生成する方法を考案した．スピン流を生成する機構として外因性スピンホール効果の機構の一つであるskew 散乱を考えた．skew 散乱は不純物由来のスピン軌道相互作用によって生じる非対称散乱で， 左折と右折の確率差がスピンに依存することにより電流に垂直にスピン流が生じる．skew 散乱によるスピン流は不純物ポテンシャルが十分に弱い場合不純物ポテンシャルの3 乗に比例し不純物ポテンシャルの正負でスピン流の向きが反対になる．この依存性を利用して一方の井戸に斥力ポテンシャルを持つ不純物を，もう一方の井戸に引力ポテンシャルを持つ不純物を導入することで反平行スピン流を生成することを提案した． 第二に，上記の系において直流電流によって生じるスピンホール流を擬スピンの電気的操作により制御する方法を提案した．電場を井戸に垂直に印加することで2 つの井戸の間にポテンシャル差ΔV を設けることができるが， このΔV は擬スピンに作用する磁場であり，二層の差で表されるので第3 成分である．ΔV は擬スピンの第3 成分の偏極を作るので反平行スピン流を強める．一方，二層間のトンネル結合ΔSAS は擬スピンに作用する磁場の第1 成分であり，擬スピンを第1 軸のまわりに歳差させるので擬スピンの第3 成分とともに反平行スピン流を弱める．このようにΔSAS による抑制が働いているなかでΔVを変化させることにより反平行スピン流を制御できることを明らかにした．また，交流電流の場合について，スピンホール流を交流振動数により制御する方法を提案した．擬スピンはΔSAS により第1 軸のまわりに歳差しているため，この歳差の振動数に交流振動数を合わせると共鳴が起こり反平行スピン流が増大することを示した． 第三に，このように擬スピンを介したスピンホール流の電気的制御可能性を追究する中で，二重量子井戸における擬スピンのダイナミクスを解明した．直流の場合については，スピンホール流の擬スピン成分がHanle 効果の方程式に従うことを示し，不純物散乱が緩和項に寄与することを明らかにした．また交流の場合については，スピンホール流の擬スピン成分がサイクロトロン共鳴を記述する方程式と同じ形の方程式に従うことを示し，減衰の機構はサイクロトロン共鳴の場合と同じく不純物散乱による運動量緩和であることを明らかにした．以下に， 本論文の構成について述べる． 第1 章では，スピントロニクスと擬スピントロニクスに関する研究背景を概説し，二重量子井戸においてスピンと擬スピンを運ぶスピン・擬スピン流という概念を導入する． 第2 章では，系のハミルトニアンやスピン流の計算方法について述べる．スピン流の計算には半古典的な輸送方程式であるボルツマン方程式を用いるが，本研究では擬スピンのコヒーレンスを取り入れるため分布関数のサブバンド間非対角要素を考慮して分布関数の方程式を導出した．さらに分布関数を擬スピン成分に展開し，各成分が従う方程式に書き換えた． 第3 章では，分布関数の擬スピン成分が従う方程式を解くことにより，スピン・擬スピン流の伝導率を計算した．直流でのスピン・擬スピン流についてはΔSAS，ΔV ，不純物散乱による緩和時間の関数として伝導率のふるまいを明らかにした．交流でのスピン・擬スピン流については伝導率の絶対値と偏角の交流振動数依存性を明らかにした． 第4 章では，分布関数の擬スピン成分が従う方程式からスピン・擬スピン流の運動方程式を導出した．この運動方程式から，直流でのスピン・擬スピン流のダイナミクスはスピンに対するHanle 効果と同じ形の方程式によって記述されることを明らかにした．このスピン・擬スピン流の方程式の緩和項には，不純物散乱による緩和と擬スピンのデコヒーレンスが独立に働くことを見出した．また，交流でのスピン・擬スピン流の運動方程式は古典的なサイクロトロン共鳴の方程式と同型であることを明らかにした．サイクロトロン運動が擬スピンの歳差運動に置き換わるが，減衰はともに不純物散乱による緩和によるという共通点も見出した． 第5 章では，スピン・擬スピン流の観測方法を示す．直流によるスピン・擬スピン流の観測については非局所電圧の測定と動的核スピン偏極の測定を提案した．交流については， 反平行スピン流によるスピン蓄積の磁気光学測定を提案した． 第6 章では， 本研究をまとめ，展望と課題を示す．; (主査) 教授 明楽 浩史, 教授 足立 智, 准教授 土家 琢磨; 工学院(応用物理学専攻)
• DOI: 10.14943/doctoral.k15171; https://doi.org/10.14943/doctoral.k15171
• Persistent ID (NDL): info:ndljp/pid/12911360; https://dl.ndl.go.jp/pid/12911360
• Collection: 障害者向け資料
• Collection (Materials For Handicapped People:1): テキストデータ
• Collection (particular): 国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文; https://dl.ndl.go.jp/collections/A00014
• Acquisition Basis: 博士論文（自動収集）
• Date Accepted (W3CDTF): 2023-07-08T03:42:31+09:00
• Format (IMT): application/pdf
• Access Restrictions: 国立国会図書館内限定公開
• Service for the Digitized Contents Transmission Service: 図書館・個人送信対象外
• Availability of remote photoduplication service: 可
• Periodical Title (URI): http://dx.doi.org/10.14943/doctoral.k15171; http://hdl.handle.net/2115/89351
• Data Provider (Database): 国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション; https://dl.ndl.go.jp

• Summary, etc.: 近年，電子が持つ電荷の自由度とスピンの自由度の両方を利用し，新奇現象の開拓やデバイスへの工学的な応用を目指すスピントロニクスにおいて数多くの研究が進められている．スピントロニクスでスピン自由度を効率的に利用するためにはスピン偏極の生成が必須である．非磁性体においてもスピン偏極を生成できる代表的な現象...