Note (General)2022年度
【目的】慢性疼痛患者では破局的思考が強い傾向にあり、そのような患者では鍼治療の効果が認められないことも多い。その理由として背外側前頭前野や下行性疼痛抑制系の機能低下が関与している可能性が指摘されている。そこで、破局的思考を評価する Pain catastrophizing scale(PCS)を用いて破局的思考の程度と鍼通電の鎮痛効果との関係について検討するとともに、下行性疼痛抑制系を評価する Conditioned pain modulation(CPM)と Offset analgesia(OA)を用いて、破局的思考と下行性疼痛抑制系との関連性について検討した。【方法】一般成人 14 名を対象に、心理・認知機能評価として Hospital anxiety and depression Scale(HADS)と PCS を、下行性疼痛抑制系の評価として CPM および OA を、痛覚閾値の評価として知覚・痛覚定量分析装置にて電気痛覚閾値を測定した。なお、CPM は非利き手上腕に熱刺激(テスト刺激)を与えた時の痛みの VAS と熱刺激に加えて利き手への冷水刺激(条件刺激)を与えたときの痛みの VAS を測定し、その差分を CPM 効果とした。OA は非利き手前腕内側に43℃の熱刺激を 5 秒行った後、温度を 1℃上昇させ 5 秒保持、再度温度を 1℃下げ 20 秒間保持した際の痛みを VAS で連続的に測定し、VAS の最大値と最小値の差分を OA 効果とした。研究対象者は、事前に HADS と PCS を測定した後、介入前に電気痛覚閾値、CPM、OA の順番で測定した。その後、非利き手を除く上肢と両下肢の 3 肢に 4Hz、頭部に 100Hz で 30 分間鍼通電を行い、介入直後に再度、電気痛覚閾値を測定し、介入前後の電気痛覚閾値の変化量を求めた。【結果】PCS15 点を基準に研究対象者を 2 群に分け、鍼通電の鎮痛効果を比較したところ有意差が認められたが(p=0.04)、PCS と CPM 効果、OA 効果ともに相関は認められなかった(CPM:r=-0.02, p=0.94, OA: r=-0.19, p=0.49)。【考察】本研究では PCS 値が高い群で鍼通電の鎮痛効果が得られにくいことが明らかになったものの、下行性疼痛抑制系の状態を反映するとされる CPM や OA との関連は認められなかった。破局的思考を持つ患者では、背外側前頭前野の機能低下が知られていることから、鍼通電による鎮痛効果の発現には背外側前頭前野が関係しているものと思われた。しかし、CPM や OA で示される下行性疼痛抑制系の状態とは直接関係がなかったことから、PCS 値の違いにより生じた鍼通電の鎮痛効果の差は、CPM や OA の状態とは直接関連がないと考えられた。
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Date Accepted (W3CDTF)2023-10-11T15:41:07+09:00
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