Alternative TitleCharacteristics of trunk muscular hypertrophy and asymmetry in baseball players
Note (General)type:Thesis
これまで,体幹筋はスポーツ競技に必要であるという考えから,体幹筋についての関心が高まってきた.しかしながら,現場では各スポーツに必要な体幹筋の部位や左右非対称性については明らかにされずに体幹トレーニングが実施されていた.特異性の原理から考えると,スポーツパフォーマンスを向上させるためには競技動作に則した体幹トレーニングを実施することが必要である.とりわけ,野球競技は,打撃,投球ともに一側方向のみの回旋動作を反復して行っている.したがって,スポーツ選手の特異的筋肥大や左右非対称性といった形態的特性を検討する必要があると考えた.また,体幹筋の形態的特性を検討するには超音波装置を用いて筋厚を正確に計測する方法を確立した上で実施する必要があった. 筋肉の大きさを計測することは,スポーツにおける特徴を把握することや,トレーニングに伴う発達,障害の有無を研究するために重要な意味をもつ.従来,体幹筋の形態計測はMRIや,CTを用いる方法がゴールドスタンダードである.しかし,MRIやCTは静止した状態を保持する必要があるため,脊椎疾患を有するものや低学年の子ども,高齢者では計測が困難であり,計測時間が長いため,限られた人数しか計測できない.また,CTは放射線を用いるため,被曝のリスクもある.加えて両機器とも高額かつ装置が大きいため,被験者には装置のある場所まで出向く必要があり,様々な対象者を計測し,現場にて用いることは困難である.そこで本論文では,野球選手における体幹筋筋厚の計測実験に応用するために,はじめに一般者を対象として,体幹筋である腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,多裂筋を,超音波装置を用いて正確に計測する方法を確立することを目的とした.次に,一般者を対象にした実験で確立した超音波測定法を,トレーニングにより筋肉が肥大しているスポーツ選手においても計測し,計測法の有用性について検討した.そして,野球選手を対象に体幹筋筋厚を計測し,野球選手における体幹筋の形態的特性を明らかにすることを目的とした. 得られた知見は,以下の通りであった.1. 超音波測定による体幹筋筋厚の信頼性 超音波を用いた腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,多裂筋の筋厚測定における検査内信頼性は,ICCの検証においてそれぞれ>0.9であった.0.9以上はexcellentであり,体幹筋筋厚の超音波測定は信頼性のある測定方法であった(実験1) 2. 一般者における超音波を用いた体幹筋筋厚測定の妥当性と体幹筋筋断面積の関係 超音波にて計測した左右の各体幹筋筋厚はMRIにて計測した体幹筋筋厚の値と比較して有意な差は認められなかった.また,超音波を用いた体幹筋筋厚測定値とMRIを用いた体幹筋筋断面積の計測値は,全ての部位において有意な正の相関関係が認められた.これらのことから,超音波を用いて一般者の体幹筋を計測することの有効性が確認された(実験2).3. スポーツ競技選手における超音波を用いた体幹筋筋厚測定の妥当性と体幹筋筋断面積の関係 スポーツ選手においても体幹筋筋厚の信頼性は高かった.また,超音波を用いて測定した体幹筋筋厚とMRIを用いて測定された体幹筋筋厚,筋断面積との間にも高い相関があることが明らかになった.しかし,多裂筋においては筋厚と筋断面積の相関係数が低く,個々によって筋肉の形状が異なる可能性が示唆された.これらのことからスポーツ選手の体幹筋を対象とした超音波測定の有効性が確認された(実験3).4. 野球選手における体幹筋の形態的特性の検討 野球選手は一般者に比べて体幹筋が有意に肥大していた.さらに野球選手の体幹筋には,内腹斜筋,腹横筋において非打撃側が有意に大きい左右非対称性が生じていた.これは投球よりも打撃に依存した特異的形態変化が生じていることが明らかになった.この2筋の筋厚は一般者の筋厚の約1.5倍大きかった(実験4).本博士論文ではスポーツ競技特有の体幹筋の形態的特性を明らかにするため,これまで解明されていなかった体幹筋の左右非対称性に着目し,超音波測定法を用いた検討を行った.超音波とMRIを用いた形態測定から,MRIの代用として,超音波を用いることが可能であることが示唆された.また本研究の結果から,一般者のみならず,筋肥大が生じているスポーツ選手にも用いることが可能であると考えられた.そして,確立した体幹筋の超音波測定法を野球選手に応用し,一般者との筋厚の比較,左右非対称性について検討した.その結果,野球選手は打撃への適用として非打撃測の内腹斜筋,腹横筋の筋肥大,左右非対称性が生じていることが考えられた.以上のことから,超音波測定法は体幹筋の計測にも有用であることが示唆された.また,体幹筋は各スポーツ競技に適応するための形態的特性が生じている可能性が示唆された.本研究の結果は,臨床現場にて超音波測定法を用いるための有用な知見であり,また,競技パフォーマンスを向上するためのトレーニング処方の一助に貢献できると考える.
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2024-02-02T16:16:38+09:00
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