Alternative TitleStudy on fatigue phenomenon of aramid fibers
Note (General)type:Thesis
アラミド繊維は,高い引張強度と弾性率を示すことが知られており,その優れた物性から,繊維強化プラスチックの強化繊維や防刃着などに利用されている.しかし,アラミド繊維は,疲労を起こすことが知られており,前述のような強度が要求される用途において,不意の事故を引き起こさないためにも,アラミド繊維の安全な利用の基礎となる疲労現象の詳細な研究が必要とされる. 本研究では,アラミド繊維の分子構造やより高次の構造の違いがもたらす耐疲労性への影響を明らかにすることを目的として,poly(para-phenylene terephthalamide) (PPTA)繊維およびpoly(para-phenylene-co-3,4’-oxydiphenylene terephthalamide) (PPODTA)繊維の疲労挙動や力学物性,分子鎖の結合状態,疲労によって生じた破断面の比較検討を行った. PPTA単繊維およびPPODTA単繊維の耐疲労性についての検討では,本研究で調査された応力の範囲において,両繊維はともに疲労現象を示した.また,両繊維ともに,繊維直径や試験片の試長の増加に伴って,より疲労破断しやすくなる傾向を示した.本研究で用いたPPTA繊維並びにPPODTA繊維での比較においては,同じ応力負荷条件でPPTA繊維およびPPODTA繊維を疲労させた場合,引張強度ではPPODTA繊維に劣るPPTA繊維が,より高い耐疲労性を示した. 疲労前後のPPTA繊維およびPPODTA繊維の力学物性の変化についての比較検討では,疲労試験後のPPTA繊維およびPPODTA繊維の初期弾性率の分布が,未処理の繊維の弾性率の分布と比較して,より大きい値側へシフトすることが確認された.一方で,引張強度の分布は,有意なシフトが確認されなかった. 顕微Raman分光分析および顕微赤外分光分析を用いた分子鎖の結合状態について検討では,疲労試験前後で,ベンゼン環のC-C結合やC=O結合の状態に変化は確認されなかったが,繊維が伸長された状態では,結合の間に働く力の定数の減少や,力の定数のばらつきの増加に由来すると考えられる変化が観察された.また,未処理のPPODTA繊維では,水素結合していないN-H結合の伸縮に由来するピークが確認された.水素結合の有無は,繊維の耐疲労性に影響を及ぼすと示唆されており,PPTA繊維およびPPODTA繊維が示す疲労挙動の差は,この水素結合の形成量の違いが一因であると考えられる. 疲労前後のPPTA繊維およびPPODTA繊維の光学顕微鏡による観察では,PPTA繊維およびPPODTA繊維試料の疲労破断で生じた繊維軸と垂直方向への分裂の程度が,引張破断で生じたものと比較して,より大きくなることが示された.また,走査型電子顕微鏡による観察では,PPTA繊維の疲労破断において,引張破断の場合と比較すると,繊維軸に垂直な破断面が観察される傾向にあった.一方で,PPODTA繊維の疲労破断においては,引張破断の場合と比較して,より大きくフィブリル化して分裂した形状を示す傾向にあった.これらのことから,PPTA繊維の疲労破断プロセスについては,疲労破断時の亀裂が主に繊維軸を横断して進展するものと考えられ,それに対して,PPODTA繊維の疲労破断プロセスについては,分子鎖間の水素結合の形成量がPPTA繊維の場合と比較して少ないことから,疲労破断時の分裂が繊維軸と垂直方向により深く,繊維軸方向により長く進展するものと考えられる. 以上のような知見を基にPPTA繊維およびPPODTA繊維の疲労破壊に至る過程を総合的に検討した結果から,アラミド繊維の耐疲労性向上に対して,1:繊維の細径化による弾性率増加,および,2:分子設計および高次構造制御による水素結合の増加,の2点が効果的な設計指針であることを提案した.
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Date Accepted (W3CDTF)2024-09-06T22:07:41+09:00
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