Note (General)現在,先進国をはじめとして世界中で少子高齢化が進んでいる.日本は世界的にも高齢化率が高く,将来も増加傾向にあると予測されている.高齢化により物流,輸送,製造,設備などの現場や介護福祉施設では人手不足と作業者の高齢化が懸念されており,将来を見据えた省人・省力化が求められている.これらの作業現場では大きな負担がかかるほか,長時間の作業が行われるため,長年の労働により腰痛などの業務上疾病も多く発生している.特にこれらの作業では重量物を移動させるもしくは介護者を車いすで移動させることが頻繁にあり,作業者への身体的負担が大きい.さらに将来的な高齢作業者の増加も見込まれるため,移動負担を軽減できる対人移動支援技術を開発していくことは現在の重要な課題である.これまでの対人移動支援技術としては車いすや台車などの電動化,無人搬送機の導入が主に工場や介護施設などで実用化されている.このような作業現場では移動機器の故障や不調による作業停止が非常に懸念されるため,ガイド誘導式の無人搬送機や人手で操縦する電動車いすや電動台車などのような確実性が高いものが利用されてきた.ガイド誘導式は確実である一方で,ガイド設置の負担があり,設置後の移動経路変更は容易にできない.そこで,LiDARやカメラなどの環境認識センサを利用して,環境を変更せずに自動走行する研究も多くなされてきた.しかし,ガイド式のような確実性を保証することは困難であり,また,走行ルートは作業者が状況に応じて意図した場所や経路に即時で移動することは困難である.そこで,以下の 3 点の支援技術を統合することで作業支援に適した対人移動支援システムを構築していく.1. 作業者への移動パワーアシスト2. 特定環境での自動走行3. 高さ方向の昇降アシスト自律移動はセンサへの外乱が少ない特定環境では確実性があり,実用的である.また,作業者がパワーアシスト機能を用いて移動することで即座に移動意図を反映できる.さらには移動前後で重量物の積み下ろし(介護では被介護者の移乗)には大きな負担が上肢や腰にかかる.そこで移動支援は高さ方向にも拡張する.本研究ではまず移動支援のためのパワーアシスト技術を提案する.まずは介護者が車いすを水平面で操縦する際の負荷を定常時負荷と始動・停止時負荷に分けて独立にアシスト率を調整できるアドミタンス制御の手法を提案した.本手法では速度制御器を用いており,路面の摩擦やスロープ,段差による抵抗に影響されないため,介護者の操作特性は常に一定になる.また,スロープ上は力を加えていない状態でも車いすは静止することができ,安全性も高い.しかし,従来の研究では走行路面が非平面である場合に生じる操作感変化に関して明らかにされていない.本研究では車いすが水平面からスロープに遷移する時やスロープを上り切り水平面に遷移する時で介護者への操作負荷の変動を調査し,駆動輪に補正速度を加えることで介護者の操作感覚が変化しない速度補正型パワーアシスト手法を提案した.本研究により水平面からスロープに遷移する際に力の増加(抵抗感)が確認された.これは車いすの走行路面が非平面であるため,制御する車輪速度と介護者が把持するハンドルの速度によるものである.そのため,介護者が把持するハンドルと駆動輪の速度関係をモデル化し,駆動輪の目標速度に補正速度を加えることでハンドルの速度変動を抑制した.検証実験ではパワーアシスト手法の有効性と速度補正の有効性を検証し,理論通りの結果が得られた.また,本アドミッタンス制御手法はモータがスロープの重力などの負担を補償することで,傾斜がある路面でも水平面のような操作感を実現しているが,屋外では急勾配のスロープも多く,重力負担がモータの駆動力を超えたることがある.そのような場合はパワーアシスト感が維持されず,介護者の意図した速度や方向で走行することが困難になる.そこで,本研究では急勾配に対応できるように,重力の一部をユーザに分担させた拡張アドミッタンス制御を提案した.さらに,搭乗者ごとの体重差を考慮して,搭乗者と車いすの総重量を推定するオブザーバを用いることで,異なる搭乗者とスロープに対して最大パワーアシスト率に自動調整できる手法を提案・検証した.以上提案したパワーアシスト手法は力覚センサを車いすのハンドル部分に組み込んで介護者の力を計測する必要があり,コスト面の負担も高い.そこで,力覚センサを用いずに駆動輪のモータから介護者の力を推定するセンサレス力推定手法を提案した.また,エンコーダが組み込まれていないモータもあるため,速度推定のオブザーバも構築した.従来では速度センサを用いた力推定のオブザーバは構築されているものの,速度オブザーバを利用した力推定手法は提案されていない.そこで,本研究では速度と力を推定するセンサレスパワーアシスト手法を提案し,その効果を検証した.次に移動経路が決まっている場合を想定して,屋内と屋外環境での自律移動手法を提案した.センサ外乱が少ない特定環境ではLiDAR や GPS などのセンサを用いた自律移動技術は実用的であり,省人・省力化に貢献できる.本研究では室外では遮蔽物がないひらけた環境では RTK-GNSS を用いてトラクタに後付け可能な自動運転システムを提案した.また,ケーススタディとして芝刈り作業を行う芝刈りトラクタを想定し,ハンドルやペダルに後付する制御装置を研究対象とした.自己位置推定にはRTK-GNSSのみを使用することで,センサフュージョンを必要しない簡易的なシステム構成を提案した.検証は芝刈りトラクタの簡易機を製作して実験を行い,安定した高精度の自律走行が確認できた.次に室内の自律走行では, LiDARのみを用いて周囲の壁を認識しながら走行する手法を提案した.これまでのLiDARを用いた自己位置推定手法はICPやパーティクルフィルタなどを利用しており,リアルタイム制御を行うには高性能なPCを用いる必要があった.本研究では処理負担が低い2D-LiDARを用いた最小二乗法の手法を提案し,狭い空間でも高精度の自己位置推定および経路追従手法を提案した.ケーススタディとして室内でのゴルフバッグの搬送作業を対象として,開発した搬送機を用いて狭い空間内での走行検証を行った.複数回の走行実験を重ねた結果,衝突やコースから逸脱することなく高精度の追従結果を確認した.最後に移動支援の前後での荷物の移乗作業(福祉施設であれば車いすなどからの移乗作業)に対して,台車の台面 (車いすであれば座面) の高さを調整できる新な昇降機構を提案した.従来の昇降機構は重量物を載せた際に低位置では駆動モータに大きな力がかかり,高位置ではモータへかかる力が小さくなる性質があった.一方で速度は逆の関係にあり,低位置では高速,高位置では低速に昇降する.そのため,パワーフルな大型モータを用いる必要があった.本研究は仮想仕事の原理に基づいて,新たな駆動構造を提案することで,昇降高さによらず駆動モータに加わる力が一定で速度も変動しない昇降機構を提案した.
Thesis or Dissertation
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2024-11-12T17:30:04+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション