Alternative Title実験動物での腸管出血性大腸菌O157:H7由来ベロ毒素2の吸収抑制ならびにHelicobacter pyloriの除菌におけるウシ免疫初乳抗体の効果
Note (General)腸管出血性大腸菌 O157:H7(E. coli O157:H7)は、死者の発生を伴う食中毒の原因菌として、Helicobacter pylori (H. pylori )は、胃潰瘍、胃がんなどを誘発する細菌としてよく知られており、これらの消化器感染症に対する有効な対応策の確立が待たれている。 そこで、乳牛で作製した免疫初乳抗体を用いてこれらの消化器感染症における受動免疫の有効性を動物モデルで明らかにした。腸管感染症モデルでは、E. coli O157:H7の産生するベロ毒素2(VT2)に対する免疫初乳抗体を用いてマウスにおけるVT2の吸収阻止効果を明らかにした。胃感染症モデルでは、H. pylori に対する免疫初乳抗体及びその抗体と補体(新鮮ウシ血清)とを用いてスナネズミにおける除菌効果を実証した。これらの蛋白質分解酵素に強い抵抗性を有する免疫初乳抗体は、乳牛でそれぞれ作製した。Ⅰ. 可溶性VT2に対する抗体測定が可能な間接蛍光抗体(IFA)の開発 IFA用のVT2感作ラテックスの調製及び乳牛への免疫原に用いたVT2は、マウス抗VT2モノクローナル抗体感作Sepharose4Bカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーによってE. coli O157:H7 VT2産生株の培養液から分離した。 VT2に対する免疫初乳抗体は、分娩4ヵ月前の乳牛へ毎週1回VT2を免疫して作製した。分娩3日後までの初乳を採取し、低速遠心による脱脂及びレンネットによる脱カゼインを行って乳清を分離した。これを免疫初乳抗体として供試した。 VT2感作ラテックスは、粒径6 μmの2.5 %ラテックス粒子0.5 mlへ30 μg/mlのVT2 1.0mlを感作して調製した。それを20 %グリセリン、1 % 卵白アルブミン(OVA)を含む食塩加リン酸緩衝液(PBS)に分散させ、この5 μl をIFA用スライドガラスのwellに塗抹してIFAスライドグラスを作製した。これに1:2~1:512に希釈した免疫初乳抗体(10 μl / well)を加えて室温で1時間反応させた。次に、至適濃度のFITC標識抗ウシγグロブリン、IgG、IgAあるいはIgM抗体をそれぞれ10 μl / well反応させた。反応終了後、スライドガラスを3.0Mの塩化ナトリウムを含むPBSで洗浄することによって、非特異反応を完全に排除することができた。なお、ラテックス粒子に自家蛍光は認めなかった。一般的なVT2に対する抗体測定法であるベロ細胞を用いた中和試験では、免疫グロブリンクラス別の抗体測定が不可能であったが、このIFAによってその問題が解決された。このIFAで測定した免疫初乳抗体の抗体価は、免疫に用いた乳牛の血清抗体価の約4倍高力価であった。免疫初乳抗体のIFA価は、分娩直後に採取した初乳が最も高い1:512を示し、分娩3日後までの初乳も1:128~1:256と比較的高力価を示した。Ⅱ. マウスにおける免疫初乳抗体によるVT2の血中への吸収阻止作用 マウスの血中に吸収されたVT2の濃度は、0.2 ng/mlまで測定可能な蛍光ELISAによって測定した。マウス(146匹)を用いて免疫初乳抗体によるVT2の血中への吸収阻止効果を検討した。 吸収に至適な477.8 ng/ml のVT2 0.3mlをゾンデを用いて投与し、その1時間後からVT2に対する免疫初乳抗体0.3mlを1時間間隔で計3回投与したところ、血中へのVT2の吸収は、わずか0.3~2.6 ng/ml と微量であった。それに対して、免疫初乳抗体の代わりにVT2に対する抗体を含まない初乳乳清を投与した対照群では、VT2投与12時間後に15.4 ± 5.04 ng/ml、16時間後に 4.3 ± 1.61 ng/ml まで上昇した。免疫初乳抗体を投与したマウスのVT2濃度は、対照群に比べて有意に低値を示した。これは、腸管内において免疫初乳抗体がVT2と結合してVT2の毒素活性部位をブロックするとともに大きな免疫複合体を形成して糞便中へ排泄されたために吸収量が少なかったと推察された。 多量(955.6 ng/ml)のVT2を投与した場合には、16時間後にマウスの血中へわずか8.2 ng/mlしか吸収されなかった。これは多量のVT2によって腸管粘膜が強く傷害され、吸収機能が低下したためと考えられた。Ⅲ. スナネズミにおける免疫初乳抗体によるH. pyloriの除菌効果 H. pyloriに対する免疫初乳抗体は、分娩3ヵ月前の乳牛へ毎週1回H. pyloriを免疫して作製した。分娩後3日分の初乳を採取し、VT2に対する免疫初乳抗体と同様の方法で、乳清を分離した。この免疫初乳抗体は、H. pyloriの菌体及び鞭毛の両方に対する抗体活性を有していることをIFAで確認した上で、本実験に供試した。 H. pyloriの除菌に関する実験には、5~10週齢のスナネズミ(101匹)を用いた。スナネズミへのH. pyloriの接種は、ゾンデを用いて0.1%重曹 0.3mlを投与後、5×107CFUのH. pyloriを1日に1回、2日間接種し、2週間後にELISAによってH. pyloriに対する血中のIgM及びIgG抗体価の上昇から感染の成立を確認して本実験に用いた。なお、このELISAでの抗体価の上昇が、H. pylori感染成立の指標となることは、別な実験で確認済みである。 除菌処置を施したスナネズミは、除菌処置終了1ヵ月後に安楽死させ、胃のホモジネート10 μlをウマ血清加BHI培地に塗抹して37℃、微好気環境下で7日間培養した後に、H. pyloriのコロニー形成の有無によって除菌効果を判定した。 H. pyloriを感染させたスナネズミへヒトの治療で最も一般的に用いられているオメプラゾール、クラリスロマイシン及びアモキシシリンをヒトにおける用量の約1.3倍量に相当する10mg/kg 及び約2倍量に相当する20mg/kgを1日2回、7日間経口投与した。その結果、H. pyloriの除菌率は10mg/kg投与群で92%(11/12例)、20 mg/kg 投与群では100%(12/12例)であった。 免疫初乳抗体による除菌実験では、スナネズミへ0.1 %重曹0.3mlを投与して胃内のpHを中性付近に調整した後に、0.5 mlの免疫初乳抗体を1日2回、1ヵ月間または2ヵ月間経口投与した。対照群へは、免疫初乳抗体の代わりに、H. pyloriに対する抗体を含まない初乳乳清を同量投与した。その結果、H. pyloriの除菌率は、免疫初乳抗体1ヵ月間投与群で83%(10/12例)、2ヵ月間投与群では、薬剤10 mg/kg 投与群と同じ、92%(11/12例)であった。これらの対照群の除菌率はいずれも0%(0/6例)であった。本実験に用いた免疫初乳抗体は、H. pyloriの菌体と鞭毛の両方に対する抗体活性を有していることから、抗体分子がH. pyloriの菌体や鞭毛へ結合することによってH. pyloriの運動性や定着の阻害に加えてH. pyloriとの免疫複合体が形成されて排泄が促進され、除菌効果が発現されたものと考えられた。 免疫初乳抗体と補体とによる除菌実験では、スナネズミへ0.1 %重曹0.3 ml投与後、免疫初乳抗体及び補体をそれぞれ0.5 ml、1日2回、2~3日間経口投与した。対照群のスナネズミへは免疫初乳抗体と56℃、30分間の加熱によって不活化した補体を実験群と同じ条件で投与した。その結果、免疫初乳抗体の2日間投与群では83 %(10/12例)、3日間投与群では100 %(12/12例)の除菌効果が認められた。in vitroで、H. pyloriへ免疫初乳抗体と補体とを作用させた場合に、H. pyloriが強く傷害(溶菌)される現象が確認されたことから、胃内においても、in vitroと同様に、活性化された補体によってH. pyloriの菌体が傷害された結果、短期間で強い除菌効果が発現したと考えられた。これらの対照群では、いずれも8%(1/12例)の除菌率を示した。これは各除菌処置日における初回投与前に不活化した補体の機能が時間の経過に伴って復活し、2回目の抗体・不活化補体投与時に補体が活性化されてH. pyloriを傷害したためと考えられた。 ヒトのH. pyloriの除菌治療においては、薬剤耐性菌の出現及び薬剤に対する過敏症患者への投与が問題となっている。それに対して、免疫初乳抗体あるいは免疫初乳抗体と補体とを用いる方法は、牛乳アレルギーを有するヒト以外の患者へ、耐性菌の問題が全くなく、反復投与ができる有用なH. pyloriの感染予防法あるいは除菌法として応用が可能と考えられた。ことに、胃内で補体を活性化させる方法は、きわめて短期間で除菌が可能な画期的な手法になりうると考えられた。
A simple and novel assay method for determining colostral and serum against soluble verotxin 2 (VT2) titers by indirect fluorescent antibody (IFA) assay using latex sensitized with VT2 was devised. The latex particles did not auto-fluoresce, and nonspecific reactions disappeared after washing with phosphate buffered saline containing 3 M Nacl. The highest titer measured by neutralizing test was observed at 1 day after delivery. The highest titer for each immunoglobulin class measured by enzyme linked immunosorbent assay (ELISA) or IFA using latex sensitized with VT2 was also observed at 1 day after delivery. The changes in titer measured by each method showed similar patterns. Furthermore, the titers for IgG antibody were higher than those for IgM or IgA antibodies. Thus, the titers of bovine immune colostral antibody and each immunoglobulin class could be measured by IFA using latex sensitized with VT2.
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2015-02-03T05:25:05+09:00
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