Note (General)【目的】音楽を聞いている時は痛みの認知程度が低下する事が知られているが、客観的な手法をもとに明らかにはされていない。そこで本研究では、音楽を聞くことにより疼痛閾値はどの程度変化するか、また侵害刺激に反応していた帯状回の神経活動は音楽を聞くことにより変化するかを検討した。 【方法】 被験者45名を対象に前腕内側と足首内側に電極を貼り知覚・痛覚定量分析装置(Pain Vision®PS-2100N:ニプロ株式会社)を用いて、無条件時と3種類の音楽(ポップス・バラード・クラシック)を聞かせたときの知覚閾値(最小感知電流値)と疼痛閾値(痛み対応電流値)を測定し比較検討した。さらに、口腔内測定用の電極を舌・頬粘膜・上顎歯肉・下顎歯肉に置き、上記と同様に無条件時と3種類の音楽を聞かせたときの疼痛閾値を測定し比較検討した。また、被験者8名を対象にPain Visionから流れる電流80μAを侵害刺激として足首内側に与えた時の帯状回の神経活動を機能的磁気共鳴装置(fMRI)で調べ、無条件時と3種類の音楽を流している時の活動状態を比較した。 【結果と考察】 前腕の知覚閾値では無条件と3種類の音楽による4条件下での有意差は認められなかったが、前腕の痛覚閾値、足首の知覚閾値、足首の痛覚閾値では4条件下での有意差が認められた(Friedman test:順にp <0.001、p <0.05、p <0.01)。また口腔内4箇所においても4条件下での有意差が認められた(Friedman test:p <0.01)。各部位のそれぞれの2条件をWilcoxon signed-ranks testを用いて比較した場合、前腕知覚閾値ではポップスとバラード、ポップスとクラシックの間に有意差が認められ、痛覚閾値ではクラシックと他3条件の間に有意差が認められた(2条件間のうち後者が前者に比較して閾値が上昇)。足首知覚閾値では無条件とポップス、無条件とクラシック、バラードとクラシックの間に有意差が認められ、痛覚閾値では無条件とバラード、無条件とクラシック、ポップスとバラード、ポップスとクラシックとの間に有意差が認められた。舌の疼痛閾値は無条件とバラード、無条件とクラシック、ポップスとクラシックの間に有意差が認められ、頬粘膜の疼痛閾値は無条件とバラード、無条件とクラシック、ポップスとバラード、ポップスとクラシックの間に有意差が認められ、上顎歯肉では無条件とバラード、無条件とクラシック、ポップスとバラードの間に有意差が認められ、下顎歯肉では、無条件とバラード、無条件とクラシック、ポップスとクラシックの間に有意差が認められた。fMRIの実験では、侵害刺激に反応を示した帯状回での神経活動がポップスを聞くことにより2名、バラードを聞くことに1名、クラシックを聞くことにより2名の被験者において減弱した。これらの結果より、バラードやクラシックのようなスローテンポの曲を聞くことは疼痛緩和に非常に有効であることが示唆された。これは音楽の気分や感情に与える心理的作用と痛覚伝導系への抑制作用によるものだと考えられた。
2013
identifier:甲第153号
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2015-02-03T05:25:05+09:00
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション