Note (General)近年,在宅高齢者の健康管理のためのライフログ計測など,大規模なデータから特徴や知識を抽出するための研究としてデータマイニングが注目されている.データマイニングでは,特徴抽出のために各種設定パラメタを調整しながら,適応的に状態を推定する方法論が必要とされる.つまり,状態推定の精度を向上させるためには知識表現に必要となる特徴量を更新しなければならず,特徴量を評価するためには状態推定の結果が必要となる.特徴抽出や状態推定をおこなうための方法論の一つとしてニューロコンピューティングがある.ニューロコンピューティングでは,各ニューロンの発火の閾値やニューロン間の結合係数を調整することで,目標とする入出力関係を学習することができ,様々な種類のネットワーク構造や学習手法が提案されている.しかしながら,入出力関係が時々刻々と変化するデータに対しては,学習が困難な場合が多い.できるだけ汎化性を維持しつつ,適応性を実現するための方法論として構造化学習という概念がある.構造化学習では,学習構造が特徴抽出や状態推定などの機能をもった複数のモジュールから構成され,それぞれが相互依存的な学習をおこなうことができる.したがって,本研究では,「ニューロコンピューティングに基づく構造化学習を提案し,特徴抽出と状態推定を相互依存的におこなうための方法論を確立すること」を目的とする.具体的には,対象とする時系列データの特徴に合わせて,スパイキングニューラルネットワーク(SNN),ファジィ・スパイキングニューラルネットワーク(FSNN),Growing Neural Gas(GNG)などを拡張することにより,新しい構造化学習の方法論を提案する.また,本研究では,時々刻々と変化する人の状態,動作や行動の計測に焦点をあてる.そして,利用可能な計測データの性質と学習手法の観点から,教師あり学習,半教師あり学習,教師なし学習の各方法論において,特徴抽出や学習構造における問題点を明確にし,3つの構造化学習手法を提案する.さらに,本提案手法を適用し,人の状態や動作,行動を対象とした計測実験をおこなう.実験結果より,本提案手法を適用することで,ニューラルネットワークの構造を変化させながら,ニューロン間の結合係数を調整することにより,特徴抽出と状態推定を相互依存的かつ同時に実現できることを示す.以下,本論文の概要を述べる.本論文は5章から構成されている.第1章では,前述の背景について詳細に述べ,研究の目的を明確にした.第2章では,時々刻々と変化する時系列データに対する情報処理を実現するための方法論として,ニューロコンピューティング,ファジィコンピューティング,進化計算に基づく知能化技術の方法論について述べ,従来手法の長所や短所を明確にした.第3章では,時系列データから特徴抽出と状態推定を相互依存的におこなうために,ニューロコンピューティングに基づく構造化学習の方法論を提案した.まず,ニューロコンピューティングの基本的な機能や特徴,応用における諸問題などについて述べた.次に,本提案手法である構造化学習の方法論として,(1)教師あり学習,(2)半教師あり学習,(3)教師なし学習への適用の観点から定式化をおこなった.まず,(1)教師あり学習では,閾値を用いて入力値を分類し,教師データとの誤差に基づき閾値を調整する適応型FSNNを提案した.次に,(2)半教師あり学習では,時系列データから特徴抽出としてクラスタリングをおこない,クラスタ間の遷移関係を学習することで,予測的に状態推定が可能な階層型SNN を提案した.最後に,(3)教師なし学習では,GNG を用いて時系列データを写像し,学習されたノード間の時空間的な相関関係を特徴量として抽出する自己増殖型ニューラルネットワーク(GNN)を提案した.第4章では,人の状態や動作,行動の計測を対象とした実験をおこない,ニューロコンピューティングに基づく構造化学習の検証をおこなった.まず,(1)教師あり学習の有効性を示すため,ベッド上での状態推定実験をおこなった.実験では,適応型FSNNを適用し,閾値調整の有効性を示した.次に,(2)半教師あり学習の有効性を示すため,生活空間内における行動推定実験をおこなった.実験では,階層型SNNを適用し,予測に基づく行動推定の有用性を示した.さらに,(3)教師なし学習の有効性を示すため,リハビリテーションにおける患者の特徴抽出実験をおこなった.実験では,健常者と半側空間無視患者を想定した比較実験をおこない,GNNを適用することで視線運動および上肢運動の軌道から特徴量および相関関係の抽出ができることを示した.第5章では,本論文の結論として結果を総括するとともに提案手法について今後取り組むべき課題と研究の展望について述べた.工学的な観点からまとめると,本研究では,ニューロコンピューティングに基づく構造化学習を適用することで,時々刻々と入出力関係が変化する時系列データに対し,汎化性を維持しつつ,適応性を実現できることを示した.
首都大学東京, 2014-03-25, 博士(工学), 甲第442号
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Date Accepted (W3CDTF)2015-02-03T05:25:05+09:00
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