Note (General)グラフェンは炭素原子のみで構成される2次元物質であり,その理想的な2次元性に由来して優れた電気的・物理的特性を示す。このため,電子デバイス分野への応用が強く期待されている。しかしながら,グラフェンの研究・開発は未だ基礎的な段階にあり,商業的利用に向け作製方法を含め,数多くの課題が存在している。グラフェンにおいては,その層数や形状などに応じて電気的特性が鋭く変化する。このことから分かるように試料状態に伴う物性の解明が特に重要であり,本論文ではこの点を考慮して,グラフェンの作製手法の確立と,分光学的手法による物性解明を目的とした。試料作製法には大面積作製に適した手法として,炭化ケイ素 (SiC) 熱分解法,およびアルコールを原料とする化学気相堆積 (CVD) 法に着目した。また,結晶性や伝導性などを中心とする試料の物性評価は主に分光学的手法により行った。 (1) SiC上エピタキシャルグラフェンに関する研究 SiC基板を1000 oC 以上の高温に加熱すると,Si原子が選択的に脱離し,表面に残った炭素原子がエピタキシャルグラフェンを形成する。本論文では特に,基板表面に周期的なナノファセット構造を有する微傾斜SiC上エピタキシャルグラフェンを用いて,電子的・構造的特性,および層数分布について分光学的研究を行った。ラマン分光測定では励起光源の短波長化,さらに共焦点光学系を用いることにより,グラフェンの効果的な観測に成功した。孤立グラフェンと比較してそのGピーク周波数が大きく高周波数側にシフトしていることから,エピタキシャルグラフェンはSiC基板により圧縮応力を受けていること,またこの応力はエピタキシャルグラフェンの層数増加に伴い緩和していくことを明らかにした。更に,ラマンイメージング測定により,成長初期段階で単層グラフェンが成長を始め,成長時間と共に数層グラフェンがSiC基板のステップ・テラスの方向を反映して,[11-20] 方向に対して垂直に成長していく様子を観測した。 (2) グラフェンへの不純物ドーピング グラフェンデバイス実現のためには,グラフェンの電子的・構造的制御が必要不可欠である。グラフェンへの不純物ドーピングは,現行のシリコンテクノロジーとも調和することから,有効な制御手法として注目される。グラフェンではホウ素 (B),および窒素 (N) 原子をアクセプター,ドナーとして,それぞれp型,n型グラフェンに変調することが期待される。これらの試料作製法の確立とドーピング効果の解明が応用上,重要な課題であると考え,本論文ではCVD法によるグラフェンへのB,N置換手法の確立とドーピング効果の解明を目的とした。X線光電子分光 (XPS) 測定より,作製された試料において,これらの不純物原子が炭素原子に置換していることを確認した。また,ラマン測定より,ドーピング濃度増大による欠陥誘起,ピーク周波数の変化を観測した。加えて,電気測定により,グラフェン中へのキャリア注入を示唆する結果を得た。これらの結果から,不純物濃度制御による系統的なドーピングに成功し,その効果に対する理解が深まった。 (3) 絶縁基板上へのナノグラフェン直接成長 グラフェンについては様々な作製手法がある中で,特にCVD法が大面積試料作製手法として期待される。しかしながら,従来のCVD法は基板として触媒金属基板を必要とするために,デバイス応用に向けては絶縁基板上への転写工程が必要となる。このことから,金属基板を必要としない新たなグラフェン作製技術が切望されてきた。本研究では絶縁基板である酸化マグネシウム (MgO) 上へのグラフェン直接成長を目的とし,MgO上へ高いsp2結合存在比率を持つグラフェン成長に成功した。本論文ではその成長割合がMgO基板の面方位により異なることを明らかにし,新たな成長モデルを提案した。この成長モデルは,グラフェンと基板との格子マッチングによって理解することができ,格子整合性が高い場合,そのグラフェン成長は基板に沿う形で広がっていき,炭素流量の増大で加速される。一方,格子整合しない場合,グラフェンは自己形成的に成長し,そのsp2存在比やドメインサイズ等は,炭素流量に依存することを明らかにした。 以上をまとめると, 本研究ではグラフェンの物性に関する多くの新事実を明らかにするとともに,グラフェンの物性制御や新たな作製手法の提起を行うなど,将来のデバイス作製に向けていくつかの新しい重要な知見を示した。 今後これらの知見を踏まえて, デバイス応用可能なレベルの電子物性制御まで発展させていくことにより, エレクトロニクス技術への貢献が期待される。
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Date Accepted (W3CDTF)2015-05-01T13:23:17+09:00
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