Note (General)本研究は、発振波長が温度に依存しない光通信用半導体レーザの実現を目的としている。高品質なBi系III-V族半導体半金属混晶GaAs1-xBixの分子線エピタキシャル(MBE)成長、GaAs1-xBixを発光層とした利得導波路型GaAs1-xBixレーザダイオード(LDs)の製作に取り組み、世界で初めて、高い特性温度および低い発振波長の温度依存性を併せ持つGaAs1−xBix LDsを実現した。 現代の情報化社会を支える光通信分野において、一本の光ファイバーに複数の光信号を伝達する波長分割多重(WDM)通信方式が重要となっている。現行のInGaAsPレーザでは、特性温度が低いことや発振波長の温度依存性の問題から、しきい値や波長を安定させるための冷却システムが必須であり、消費電力やコストの面が問題視されている。冷却システムを必要としないWDM通信方式の普及には、高い特性温度(To)を有し、かつ、発振波長が温度に依存しない(d/dT=0)光通信用半導体レーザが必要となる 当該レーザ用材料として注目したのが、Bi系III-V族半導体半金属混晶である。本混晶は、その禁制帯幅が小さい温度依存性を有することが明らかにされており、本混晶をレーザの発光層に適用することで、発振波長が温度に依存しない半導体レーザを実現できると考えられる。 Bi系III-V族半導体半金属混晶は非常に大きな非混和性を有しており、400℃以下という低温でしか成長出来ない。本研究では、非平衡な結晶成長を得意とするMBE法を用いた。AlyGa1-yAsなどの高い禁制帯幅を有する結晶が容易に成長可能なGaAs基板を用いて、高品質な高Bi組成GaAs1-xBixの成長、およびAlyGa1-yAsクラッド層からなるGaAs1-xBix LDsからのレーザ発振の実現を試みた。 本論文では第1章の序論、第2章の実験方法に続き、以下のような内容を述べる。第3章では、成長速度およびMBE成長時のAs/Gaフラックス比を制御することで、GaAs基板にコヒーレント成長する高品質な高Bi組成GaAs1-xBix薄膜を得た。GaBiモル比9.5%のGaAs0.905Bi0.095薄膜から室温において通信波長帯である1.3mでのホトルミネセンス(PL)が得られ、かつ、発光強度の劣化は見られなかった。発光強度は低下したものの、GaBiモル比11.8%のGaAs0.882Bi0.118薄膜から1.45mでのPLが得られた。Bi起因の局在準位は価電子帯上端付近より約90meV程度エネルギーの高い所まで連続的に分布しており、その密度は~1017 cm-3程度であった。その局在準位が正孔移動度に及ぼす影響は少なく、室温においてGaAs1-xBix(x3.6%)の正孔移動度はGaAs結晶と同程度であった。400℃以下という低温成長にもかかわらず、GaAs1-xBix(x3.4%)中の欠陥密度は560℃で成長したGaAsと同程度であることをDLTS法から明らかにした。Bi原子のSurfactant-like効果によって吸着原子の表面マイグレーションが促進され、高品質なGaAs1-xBix薄膜を得られたと考えられる。第4章では、高い伝導帯オフセットを有すると予測されるGaAs1-xBix/AlyGa1-yAsヘテロ接合の製作を実現した。アドミタンス法によって検出した密度8×1011 cm-2eV-1程度のGaAs1-xBix/GaAs界面準位が、GaAs1-xBix/GaAsバンドアライメントの決定に影響を及ぼしていた。GaAsとGaAs1−xBixの成長表面電子構造の違いを考慮し、Bi組成傾斜層をヘテロ界面間に導入することで界面準位密度の半減に成功し、バンドアライメント決定への足掛かりを掴んだ。また、GaAs0.941Bi0.059/Al0.3Ga0.7Asから1204nmでの光励起によるレーザ発振を実現した。20℃から80℃において、To=100 K, d/dT0.2 nm/Kであり、励起方法が異なるものの、InGaAsPレーザで報告されている値(To=66 K, d/dT=0.45 nm/K)よりも優れた値であった。GaAs1-xBixを用いることで、高い特性温度を有し、発振波長が温度に依存しない光通信用半導体レーザが実現できる可能性を示した。 第5章では、電流注入によるレーザ発振を目的として、GaAs1−xBix LDsを製作した。MBE法によってn-GaAs基板上にAlyGa1-yAsクラッド層およびGaAs1−xBix発光層を有するダブルヘテロ構造を成長した。スパッタ法により製膜したSiO2絶縁膜を幅10~80mのストライプ型にエッチングし、試料表面にはAuZnを、試料裏面にはAuGeNiをオーミック電極として蒸着し、ストライプ電極利得導波路型GaAs1−xBix (x4%)LDsを製作した。パルス駆動(パルス幅:100nsec、Duty比:0.1~0.2%)において、GaAs0.96Bi0.04 LDから波長1045.4nmでの室温レーザ発振を実現した。室温付近におけるGaAs0.97Bi0.03 LDの温度特性はTo=125 K, d/dT0.16 nm/Kであり、発振波長の温度依存性は、同様のプロセスで製作したGaAs LDに比べて、約40%に低減していた。GaAs1−xBix LDsは高い特性温度および低い発振波長の温度依存性を併せ持つことを世界で初めて実証した。以上の結果をふまえた上で、GaAs1−xBix LD特性の更なる向上への方法を第6章の今後の展望で述べた。第7章は以上全てを総括し、本論文の結論とした。
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Date Accepted (W3CDTF)2015-05-01T13:23:17+09:00
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