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知識を世界に求めて―明治維新前後の翻訳事情―

知識を世界に求めて―明治維新前後の翻訳事情―

日本では、江戸時代の「鎖国」政策の下、限られた窓口から海外情報を入手する時代が長く続きましたが、幕末の開国、そして明治維新という激動の時代に、先人の豊かな好奇心と奮闘により、西洋の知識を広く求め、それらを受容しつつ、近代化につなげていきました。この展示は、その歩みを「翻訳」という営為を通じてたどり、異文化理解や知的活動において、翻訳が果たしてきた意義や役割を紹介しようとするものです。

時代の潮流に関わりの深い、あるいは社会に大きな影響を及ぼした翻訳書を中心に、第1章から第3章までは西洋知識の移入と受容の歴史を概観し、第4章ではおおむね明治時代前期までの翻訳文学の歩みを振り返ります。

このページは、令和4年に開催した企画展示を元にデジタル資料を用いて再構築したものです。企画展示の情報はこちらをご覧ください。

第1章 オランダを通して世界をのぞく

江戸幕府は禁教と貿易統制を目的として、寛永16(1639)年にはポルトガル船の来航を禁止、寛永18(1641)年にはオランダ商館を長崎の出島に移し、いわゆる「鎖国」体制を確立しました。「鎖国」体制下でもオランダ、中国との交易や朝鮮、琉球との通信は続けられ、特に唯一の西洋国家であるオランダがもたらした文物は、我が国が近代的な西洋知識を得るための貴重な情報源となりました。

オランダを通じて入手した蘭書は、暦を司る幕府の天文方やオランダ通詞(通訳官)、蘭学者らの限られた知識人たちによって翻訳されました。一方で、蘭学による幕政への影響を警戒し、幕府は蘭書の翻訳出版を厳しく規制していました。

我が国で蘭学が隆盛した18世紀後半から19世紀半ばにかけては、西洋諸国では市民革命や産業革命が起こり、近代化が進んで世界情勢が大きく変化した時代でした。本章では、オランダを通して見た世界、そして世界から見た日本、これらを紹介した蘭書の翻訳書などを紹介します。

第2章 開国期における西洋知識の移入

19世紀に入ると、西洋諸国によるアジア進出が始まり、我が国を取り巻く国際環境に大きな変化が生じました。アヘン戦争(1840~1842年)によって中国がイギリスに敗れるとの報は、幕府に大きな衝撃と危機感を与えました。嘉永6(1853)年のペリー来航、その翌年の日米和親条約締結によって我が国は開国し、約200年間にわたる「鎖国」体制に終止符を打ちました。

開国により、翻訳の対象は、それまでの長崎・出島経由の限定的な情報から、西洋の脅威に対抗するための、西洋についての広範な情報へと変わっていきます。言語はこれまでのオランダ語中心から次第に英語、フランス語などへと移行していき、分野もまた、海外事情に関するより新しい情報や兵学、国際法などに広がっていきました。

交渉相手としての西洋の情報の必要性からも、幕府は安政3(1856)年に、広く洋学者を集めるとともに人材の育成を目的として、直轄の翻訳機関である蕃書調所を設立しました。本章では主に、漢訳洋書(洋書を中国語訳したもの)を含む漢籍や蘭書を取り上げつつ、開国・幕末期の翻訳活動を紹介します。

第3章 西洋知識の受容と近代化

慶応3(1867)年の大政奉還、そして王政復古の大号令によって、新たに明治政府が発足します。新政府は我が国の近代化を目指し、「富国強兵」のスローガンを掲げて諸々の制度改革を推し進めていきます。このため、海外留学生や使節団を派遣し、また、いわゆるお雇い外国人を招いて、西洋の知識を吸収していきました。

一方で、広汎な西洋の書物の輸入が可能となり、文明開化の機運にのって、西洋の文化や思想、自然科学などを紹介した翻訳書が多く出版されました。こうした翻訳書の一部は、明治5(1872)年の学制に基づく近代教育において、教科書としても使用されました。また、西洋の最新技術を紹介した翻訳書は我が国の産業の近代化に貢献しました。

さらに、翻訳書を通じた西洋思想の広まりは自由民権運動に大きな影響を与えました。憲法の制定に代表される法制の整備においても翻訳の役割は重要でした。本章では、おおむね明治前期を対象として、翻訳が果たした大きな役割の一端を紹介します。

第4章 翻訳文学の歩み

我が国は古くから中国文化の影響を受けてきました。

漢文(中国語)を日本語の文脈に直して読む漢文訓読法は、日本人が創った簡易な翻訳方法であり、その長い実践の歴史を通じて日本人が慣れ親しんだ言語形式となりました。そして、漢文訓読法由来の語法や漢語を多用した文体は漢文訓読体と呼ばれており、開国期からの数多くの西洋文献を翻訳するにあたっても、この漢文訓読体が多く使われました。

西洋文学の翻訳においても、漢文訓読体を基調としつつ、明治20年代までの動きに注目すると、翻訳態度・訳出法やジャンルの変化とともに、多様な文体が見られるようになります。なかでも、明治20年頃からのいわゆる「言文一致運動」の開始とともに口語体の翻訳が登場します。本章では、漢字文化の影響が最も広汎になり深化したといわれる江戸時代後期から、西洋文学の翻訳が隆盛した明治20年代頃までの翻訳文学の歩みを紹介します。

知識を世界に求めて
―明治維新前後の翻訳事情―

このページは令和4年に開催した企画展示「知識を世界に求めて―明治維新前後の翻訳事情―」を元に再構成したコンテンツです。

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