正月のご挨拶―正月用引札―
一風変わった錦絵
新しい年を迎えるための縁起物の準備には色々なものがあります。ここでは大正時代頃まで商店で配布されていた引札の中から、特に正月用の引札をご紹介します。
引札には、お客を「惹く」目的で配布する札、あるいはお客を店に「引っ張ってくる札」という意味があるようです。そのため正月用引札は、商店の所在地や店名等を記したおめでたい画を描いた極彩色の印刷物で、年末・年始に店主が近所の顧客を訪問して挨拶とともに配布していました。
上図に見られるように、正月用引札には画像が描かれた部分と商店の所在地や店名等を書き入れる部分とがあります。作成は引札の版下絵を画家に発注し、その絵をもとに版をおこし印刷しました。これを「見本帖」として全国各地の印刷業者に販売し、商店は「見本帖」の中の画から選んで印刷業者に注文しました。下絵を描いた画家には、浮世絵師や日本画系の画家、雑誌の口絵を描いていた画家等がいました。
「観明」と画家名が書かれ、落款が押されています。
次に正月用引札に描かれた画像の内容を紹介しましょう。画像には多種多様のものがありますが、まず七福神や福助、お多福、霊験あらたかな信仰対象のもの等が挙げられます。
左図は福の神である福助、中央は商売繁盛・財福供給の神・恵比寿と大黒、右図は日本神話の伊弉諾と伊弉冉を描いた引札です。恵比寿と大黒の福神を描いた引札は数多く作られました。この2神が商売に関わる福神であることが理由として挙げられます。
次に花鳥の画像を紹介しましょう。
左図は松に鷹、朝陽、中央は松に鶴、朝陽、右図は富士に鶴、朝陽が描かれています。正月に見ると吉兆とされる「一富士二鷹三茄子」の画題のうち2種類が描かれています。また松と鶴は「松鶴長春」という不老長寿の画題の吉祥画です。初日の出も年神様が出現するというおめでたい画題です。
最後に画に意味が込められた引札を紹介しましょう。
左図は恵比寿と大黒、中央は恵比寿と宝船、右図は子どもと金の木が描かれています。恵比寿と大黒が小舟の上で藻を刈り採っている様子ですが、この画は、「藻を刈る」に「儲かる」をかけて縁起をかついでいます。中央図の上部には「郵便物早見」があります。これを付加することにより、日常生活の中で正月用引札を家中に貼って活用してもらう店側の意図が窺えます。最後の金の木。正月飾りに置かれた盆栽が金のなる木になっていて、子どもの成長のようにお金が育っていくようにという願いが込められているようです。
今は年末年始の挨拶にカレンダーを配布したりしますが、企業名を入れて配布する形式は、引札時代からの名残のようです。
参考文献
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