日本-判例の調べ方

判例の調べ方をご紹介します。【 】内は当館請求記号です。

1. 判例を調べる前に

判例を調べるに当たって必要となる基本的な事柄をご説明します。

1-1. 判例とは

「判例」とは、最も狭義には、最高裁判所が裁判の理由の中で示した法律的判断のうち、先例として事実上の拘束力を持つものを言います。他方、最も広義には、すべての裁判所の過去の裁判例のことを指します。ここでは、「判例」の定義を広めに捉え、「図書館資料やデータベース等の情報源に収録された裁判例」の意味で用います。
判例を収録する資料や情報源は、ある裁判で示された法律的判断が、別の事件にも適用できるかどうかの判断に資するという趣旨で編集されています。このため、判例集等に収録される判例は、全体の裁判数からするとごくわずかであり、有名な事件であっても判例集等に収録されない場合があります。
裁判においては訴状、公判調書、口頭弁論調書、証拠調べ調書、判決原本などの訴訟記録が作成されますが、判例集には、訴訟記録全てではなく、判決文中の主文、理由などの法律的判断が示される部分が収録されます。
なお、訴訟記録を閲覧したい場合は、民事事件については第一審裁判所、刑事事件については第一審裁判所に対応する検察庁で閲覧することができます(ただし、保管期限や閲覧資格に制限があります)。

1-2. 裁判と裁判所

裁判には大きく分けて民事裁判と刑事裁判があります。
民事裁判とは、私人間の法的関係についての紛争の解決を求める裁判です。離婚や認知の訴えなど家族関係についての「人事訴訟」、行政庁の行為の取消し等を求める「行政訴訟」も一般に含まれます。
刑事裁判とは、 犯罪を犯した疑いがある被告人について有罪かどうか、どのくらいの量刑にするかを、公開の法廷で審理する裁判です。
我が国の裁判所には最高裁判所のほか、高等・地方・家庭・簡易裁判所があります。訴額が低い事件や刑罰の軽い事件は簡易裁判所、家事事件や少年事件は家庭裁判所、それ以外の事件は地方裁判所が扱うこととされています。
我が国では三審制が採られ、裁判結果に不服のある当事者は原則として第一審・第二審・第三審へと上訴することができます。
このうち第一審の判決に対する上訴を「控訴」、主に控訴審の判決に対する上訴を「上告」と言います。

1-3. 判例集の掲載項目

判例集に掲載される項目のうち、判例を調べる上で参考となるものを以下に挙げます。(判例によっては掲載がない項目もあります。)

  • 事件番号
    事件番号と裁判所によって、判例を特定することが可能です。事件番号は、当該裁判所における受理年月日・符号・番号からなり、符号によって当該裁判がおおよそどのような種類のものであるかが分かるようになっています。符号は裁判所のページ外部サイトで参照することができます。

  • 裁判年月日・裁判所・裁判種類
    「○○年××月□□日東京高裁判決」のように記載されます。裁判所名のうち、最高裁判所については、大法廷・第一小法廷・第二小法廷・第三小法廷の別が記載されます。裁判種類には判決・決定・命令の3種類があり、それぞれ裁判主体・口頭弁論の要否・不服申立の方法等に違いがあります。

  • 下級審の情報
    上告審の判例であれば、第一審及び第二審の裁判所名・事件番号が記載されます。同一事件であっても、審級が異なれば事件番号も異なります。

  • 判事事項・判決要旨
    当該事件で問題となる法的論点、これらの論点についての結論が記載されます。

  • 主文(棄却・却下・認容等)
    裁判の結論部分を示す核心部分です。民事裁判であれば訴えの却下又は請求の認容若しくは棄却、刑事裁判であれば刑の言渡し、無罪、刑の免除、免訴、公訴棄却又は管轄違い等が記載されます。

  • 理由
    主文を導き出すに至った事実上、法律上の具体的根拠が示されます。

1-4. 判例の引用方法

判例は、多くの場合、以下のように引用されます(一例です)。

  大12.4.30 刑集2巻378頁
①  ②   ③     ④

①裁判所名。「大」は大審院。このほか、「最大」=最高裁判所大法廷、「最一小」=最高裁判所第一小法廷 など。

②裁判種類。「判」は判決。このほか、「決」=決定、「命」=命令。

③裁判年月日。

④出典(掲載判例集の情報)。「刑集2巻378頁」は大審院刑事判例集第2巻378頁以降に掲載、の意。判例の出典はこのように略称で記載されます。略称から正式資料名を調べる場合は、法律編集者懇話会「法律文献等の出典の表示方法外部サイト」〔2014年版〕(pp.24-27)、リサーチ・ナビ「日本-大審院・最高裁判所判例集」等を参照ください。

2. 判例を収録する資料

判例が掲載されている資料を、紙媒体・インターネット・データベースに分けてご紹介します。

2-1. 紙媒体

  • 大審院・最高裁判所判例集(当館の所蔵一覧はリサーチ・ナビ「日本-大審院・最高裁判所判例集」をご覧ください)
    戦前の大審院、戦後の最高裁判所の判例が掲載されている資料です。
    これらはタイトルに変遷が多く、また復刻版やデジタル化資料もあり複雑なため、所蔵一覧から資料を特定すると便利です。

  • 下級裁判所判例集(当館の所蔵一覧はリサーチ・ナビ「日本-下級裁判所裁判例集」をご覧ください)
    高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所及び家庭裁判所の判例が掲載されている資料です。一部を除き、ほとんどの資料は現在発行が止まっています。

  • その他分野別判例集(当館の所蔵一覧はリサーチ・ナビ「日本-分野別裁判例集」をご覧ください)
    行政、労働、交通事故等の各分野における判例が掲載されている資料です。
    いろいろな種類の判例集が発行されていますが、主なものを挙げました。

  • その他の判例登載誌(当館の所蔵一覧はリサーチ・ナビ「日本-その他の判例登載誌」をご覧ください)
    判例は様々な雑誌に掲載されます。分野を限らない総合判例雑誌、特定の分野を掲載する分野別判例雑誌があります。

※裁決例集(審決・裁決)(当館の所蔵一覧はリサーチ・ナビ「日本-裁決例集」をご覧くだ
    さい)
    行政機関等が準司法手続として行う処分や決定等が掲載されている資料です。

2-2. インターネット情報

インターネット上で多くの判例を見ることができるようになってきました。主なサイトをリサーチ・ナビ「日本-判例等リンク集」で紹介しています。

2-3. データベース

各種の有料判例データベースが発行されており、これらは収録判例数が多く検索機能も充実しているため、判例を調べるには有用です。
キーワード、裁判年月日、事件番号、裁判所名、法令条文等から容易に判例を絞り込むことができます。
データベースにより異なりますが、異なる審級の判例、引用・被引用判例、関連判例へのリンクが貼られていたり、判例評釈情報が表示されたり、関連する条文を参照することができ、便利です。
当館では、次の2種類の判例データベースを利用することが可能です(記載した各データベースの内容は、当館での契約に基づくものです)。

  • D1-Law.com「判例体系」(当館契約のデータベース:館内限定[1]
    収録判例数は28万件強。
    キーワード検索のほか、事項検索(実務上利用されると考えられる用語が独自に付与されています)ができ、検索したい法律的意味合いを含む判例を調べることができます。
    例) 事項欄に「遺留分」と入力し、「候補」を押下>「遺留分と生命保険金」「遺留分なき相続人」「遺留分の事前放棄」などが表示され、これらが争点となっている判例を見ることができます。
    また、「体系目次」により、法条文ごとに分類・整理された論点を表示させ、類似した判例を調べることができます。
    例) 「親族法・相続法」>「民法」>「1029条(遺留分の算定)」>「遺留分算定の基礎となる財産」とたどっていくと、この論点に関する判例を見ることができます。

  • TKCローライブラリー「LEX/DBインターネット」等(当館契約のデータベース:館内限定[2]
    収録判例数は29万件強。
    「LEX/DBインターネット」では、判例総合検索のほか、税務・知的財産権・交通事故・医療に特化した判例検索、特許庁審決・国税不服審判所裁決・公正取引委員会審決の行政機関等(審決・裁決)データベース、を利用できます。
    また、「公的判例集データベース」、判例タイムズ・判例地方自治・私法判例リマークス等の「出版社データベース」も利用でき、判例等をPDF画像で表示させることができます。

3. 判例の調べ方

特定の判例、あるテーマの判例、判例評釈等に分け、それぞれの調べ方をご紹介します。

3-1. 特定の判例を調べる

3-1-1. 判例掲載資料がわかる場合

判例掲載資料(出典)がわかる場合は、当該資料を見ます。
略称から正式資料名を調べる場合は、法律編集者懇話会「法律文献等の出典の表示方法外部サイト」〔2014年版〕(pp.24-27)、リサーチ・ナビ「日本-大審院・最高裁判所判例集」等を参照してください。
また、有料判例データベースや裁判所HP「裁判例情報外部サイト」において、掲載資料名・巻・号・ページから判例を特定し、表示させることもできます。

3-1-2. 判例掲載資料がわからない場合

判例掲載資料(出典)がわからない場合は、裁判所名・裁判年月日・事件番号・キーワード等をもとに有料判例データベースや裁判所HP「裁判例情報外部サイト」で調べるのが便利です。
詳細はこちらをご覧ください(2-3.データベース2-2.インターネット情報)。

  • データベース等で見つからない場合
    有名な事件の裁判の場合、判決要旨や解説記事などが新聞や雑誌の記事として収録される場合があります。国立国会図書館サーチでキーワードから雑誌記事を探す(※)か、新聞データベースで新聞記事を探してください。
    また、ある事件や裁判を素材にした図書が発行される場合もあります。国立国会図書館サーチでキーワードから図書を探してください。
    ※裁判年月日が平成27年3月5日の場合、「27.3.5 判例」と入力すると、ヒットしやすいようです。

3-2. あるテーマの判例を調べる

  • 判例要旨集を調べる
    判例の要旨と判決理由を法律の条文又は論点ごとに配列する判例要旨集が多く発行されています。
    代表的なものに『判例体系』(第一法規)【CZ-2113-6】、『新判例体系』(新日本法規)【CZ-2113-7】、『基本判例』(第一法規)【CZ-2115-4】等があります。

  • データベースから調べる
    有料判例データベースには、関連法条からの検索や事項検索によって判例を絞り込んだり、体系目次から項目を選んで判例を表示させたりすることができるものがあります。また、ある判例の連想判例が表示されるものもあります。

3-3. 判例評釈等を調べる

判例について解説・論評された記事を判例評釈・判例批評等と言いますが、このうち、特に最高裁判所調査官が執筆したものを「判例解説」と呼ぶ場合があります。
「判例解説」は、以下の資料に掲載されます。

  • 法曹時報』「最高裁判所判例解説」【Z2-95】
    毎月数件の「判例解説」が掲載されます。論文名を採録しているため、国立国会図書館サーチの雑誌記事で検索することができます。

  • 最高裁判所判例解説』 民事篇【AZ-811-49/Z41-2866】、刑事篇【AZ-711-36/Z41-1201】
    上記の『法曹時報』「最高裁判所判例解説」を1年分まとめて発行されるもの。一部国立国会図書館デジタル化資料(館内限定)。

  • ジュリスト』「最高裁 時の判例」【Z2-55】
    毎月数件の「判例解説」が掲載されます。論文名を採録しているため、国立国会図書館サーチの雑誌記事で検索することができます。

このほかの判例評釈等は、国立国会図書館サーチの雑誌記事を裁判年月日やキーワード等で検索するか、有料判例データベースで判例を特定した後、表示される評釈情報を見ます。

関連情報


[1]D1-Law.comは東京本館では議会官庁資料室(新館3階)全端末、関西館では総合閲覧室の特定端末で利用できます。

[2]TKCローライブラリーは東京本館、関西館、国際子ども図書館の全端末で利用できます。