Note (General)[研究の背景と目的]口唇トレーニングは口腔機能や歯科矯正治療後の安定性のために行われているが、トレーニング効果を定量的に評価した研究は少ない。また、高齢者における口唇閉鎖力と口唇トレーニング効果との関係も詳細には調べられていない。 本研究は、健常な若年成人および高齢者を対象に、口唇閉鎖トレーニング効果を検討した。 [方法]1.被験者は健常な若年成人のトレーニング群と非トレーニング群、および65歳以上の高齢者トレーニング群の3群に分けて行った。2.口唇閉鎖トレーニングには歯科用口唇筋力固定装置(Mパタカラ)を使用し、上下口唇を3分間閉じるタスクを1日3回、4週間行わせた。3.口唇閉鎖力は、多方位口唇閉鎖力測定装置を用いて、トレーニング前、トレーニング開始1,2,3,4週間後、トレーニング終了1,2,3,4週間後に測定した。非トレーニング群はトレーニングを行わずに同日程で測定した。 [結果]1.トレーニング前の口唇閉鎖力の総合力は、3群間に有意差が認められない。 2.健常若年成人トレーニング群: (ⅰ) 口唇閉鎖力の総合力は非トレーニング群に比べ、トレーニング開始3,4週間後に有意に増大し、トレーニング終了時に40%増加した。また、トレーニングを終了すると1週間後から低下した。 (ⅱ)口唇閉鎖力の方向別評価では、上および下方向の閉鎖力に有意な増加が認められた。 3.健常高齢者トレーニング群: (ⅰ) 口唇閉鎖力の総合力は若年成人非トレーニング群に比べ、トレーニング開始3,4週間後に有意に増大し、若年成人トレーニングと比較して有意差はみられなかった。トレーニング終了1週間後から低下した。また、若年成人と同様、トレーニング終了1週間後から低下した。(ⅱ)口唇閉鎖力の方向別評価では、下方向の口唇閉鎖力に有意な増加が認められた。 4.口唇閉鎖力の左右の対称性は、若年成人、高齢者ともにトレーニング終了後も保たれていた。 [考察] Mパタカラにより口唇閉鎖力は増大し、口唇機能の活性化が図られることが示唆された。ただし、口唇閉鎖力はトレーニング終了1週間後にトレーニング開始前のレベルに戻ったので、今回のトレーニング効果は筋肉の構造を変化させたのではなく、筋線維の動員増加による可能性がある。トレーニング効果を維持させる方法に関しては今後の研究が必要である。 高齢者についても若年成人と同様のトレーニング効果がみられることが確認された。方向特異性に関して若年成人では上下方向に有意な増加が認められたのに対し、高齢者では下方向の増加のみが有意であった。これは、高齢者では被験者によるばらつきが大きかったためと考えられる。 歯科矯正治療後の歯列の維持などに、定量的に評価した口唇閉鎖トレーニングの有用性が考えられ、そのひとつとして今回のMパタカラによるトレーニングが有効と考えられる。 虚弱高齢者は口唇閉鎖力の低下によるADLの低下が報告されている。今後は虚弱高齢者を対象として、更なる研究が必要である。
2013
identifier:甲第151号
Collection (particular)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
Date Accepted (W3CDTF)2016-05-01T16:38:40+09:00
Related Material投稿雑誌:Kaede, K. et al. Effects of lip-closing training on maximum voluntary lip-closing force during lip pursing in healthy young adults. J Oral Rehabil. 2016 Mar;43(3):169-75. © 2015 John Wiley & Sons Ltd
Data Provider (Database)国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション