人々が行き来する橋は、古くから交通の要衝に架けられ、多くの文物の交流を通してそこに街が発展していきました。なかでも歴史のある橋や変わった橋は行き来する人々によって全国に知られるようになり、名所・ランドマークとなっていきました。近江八景・金沢八景等、日本には景観をめでる習慣がありますが、橋は三大名橋・三大奇橋・三大古橋等として紹介されています。では実際に錦絵等に描かれた、これらの現存する橋をみてみましょう。

三大名橋

<日本橋(東京)・錦帯橋(岩国)・眼鏡橋(長崎)>

日本橋は慶長8(1603)年に架橋され、五街道の起点として、幕府が維持管理を行った橋でした。多くの錦絵等に描かれた名橋でしたが、明治5(1872)年銀座大火で焼失後に西洋式木造橋として架橋された後は、44(1911)年に現在の石造二重アーチの橋となりました。


岩国市の錦帯橋は、名橋であり、奇橋でもあります。岩国藩第3代当主の吉川広嘉(ひろよし)が架橋しました。橋の構造は、木造反橋で、巻金と鎹(かすがい)の他は1本の釘も使用されていません。橋の反構造案を、広嘉はかき餅が焼けて反り返るのを見て思いついたとも、長崎眼鏡橋を架橋した僧侶に話を聞いたとも伝えられています。錦帯橋は5つの反橋と精密に組み上げた木造アーチ構造の巧みさから奇橋といわれ、その美しさから名橋といわれ、国指定の名勝にも指定されています。


長崎の眼鏡橋は、寛永11(1634)年に興福寺僧侶の如定によって架橋され、日本の石橋の起源といわれています。石橋の技術は、16世紀頃に中国人によって伝えられ、九州一円に広まったといわれています。眼鏡橋の架かる中島川には多くの石橋があり、その大半は中国人によって架橋されていますが、二重アーチはこの眼鏡橋だけです。現在は重要文化財となっています。

三大奇橋

<愛本橋(黒部)・猿橋(大月)・錦帯橋(岩国)>

錦絵に黒部の愛本橋は奇橋の原型では現存していませんので、ここでは猿橋のみを紹介しましょう。

錦絵に掘り込んだ岸に刎木の一端を埋め込み、空中にせり出した木の上に橋桁をのせた構造の橋が描かれています。

猿橋は、木造刎橋構造で現存する唯一の橋です。刎橋構造の起源は古く、620年頃に百済の造園技師が野猿の群れが藤蔓を伝わり、手をつないで谷を渡るのをヒントにしたといわれています。江戸時代には甲州街道が通り、幕府にとって重要な橋となりました。刎橋として最大を誇った愛本橋は明治24(1891)年に別の形式の橋に架け替えられてしまいました。猿橋は国指定の名勝に指定されています。

三大古橋

<瀬田唐橋(大津)・山崎橋(大山崎)・宇治橋(宇治)>

山崎橋は現存しませんので、ここでは残りの2橋を紹介しましょう。

瀬田唐橋は古代から畿内防衛の最前線で、壬申の乱(672年)の戦場として「瀬田橋」という名で『日本書紀』に登場します。当時は「勢多橋」の字が用いられ、朝鮮の架橋技術を導入して造られました。本格的に橋が整備されたのは、織田信長が橋を突貫工事で架け替え、天下人としての名声をあげた天正3(1575)年のことです。以後、瀬田唐橋は明治28(1895)年まで17回の架け替えが行われています。交通の要衝として、また琵琶湖風景中にある橋として、古来から多くの歌にも詠まれています。近江八景の1つでもあり、『東海道名所図会』にも紹介されています。


宇治橋は『源氏物語』の宇治十帖の舞台となったところで、橋の創建は大化2(646)年僧の道登によります。橋姫伝承もある宇治橋は、15世紀の応仁の乱後、洪水等で流失したままでしたが、織田信長によって再建され、豊臣秀吉が架け替えました。橋は木造の桁橋構造でもっとも桁橋の多い構造で、都への要衝にあたり江戸時代には幕府の管理下に置かれていました。現在は歴史を踏まえた修景がみられる橋となっています。


今回紹介した橋は、三大名橋・奇橋・古橋として有名なものです。錦絵に描かれた橋は、景観とも見事に溶け合って美しい風景となっています。また橋を渡る人々の様子、周囲の町や川を行き交う船等、当時の人々の生活が伝わってくるようです。名所として、生活の場として、橋は現在の私達にとっても大切なライフラインです。

参考文献

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