文化財の修理報告書を探す
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人文総合情報室 作成
当館が所蔵する文化財の修理報告書の探し方を紹介します。文化財そのものについて調べる場合はリサーチ・ナビ「文化財を調べる」・「地方指定文化財を調べる」 を参照してください。
書誌事項末尾の【 】は当館請求記号です。
1. 概要
国宝・重要文化財を始めとする文化財を修理・修復する際には記録として報告書が作成・刊行されています。報告書には修理前の調査、修理方法・過程の記録、修理中に判明した知見、写真・図面などが掲載されており、文化財を調査・研究するうえで重要な資料となっています。特に建造物については戦前から今日まで刊行が続いており、多数の報告書が確認できます。また、絵画・彫刻等の美術工芸品に関しては、戦後から平成にかけて刊行が増えました。近年では地方自治体指定の文化財についても修理・修復時に刊行されることが増えています。
- 新建築学大系編集委員会 編『新建築学大系 50』(彰国社 1999 【NA25-28】)
文化財建造物修理・保存の流れや技術、歴史などを概説しており、pp.165-169では修理工事報告書の歴史的な変遷や内容構成を解説しています。 - 国立文化財機構東京文化財研究所 編集『文化財修復の現状と諸問題に関する研究会報告書』(国立文化財機構東京文化財研究所 2020 【K275-M211】)
「平成三十年における絵画修理」(pp.69-90)では、文化財絵画の修理について報告書刊行の経緯を述べています。東京文化財研究所ウェブサイトでPDF版(6.93MB)を閲覧できます。
2. 単行の報告書を探す
2-1. 名称から探す
一般的に建造物の場合は「(保存)修理工事報告書」、美術工芸品の場合は「修理報告書」と題することが多いですが、「修復報告書」「修理報告」「修復工事報告書」などこれに当てはまらない例も少なくありません。国立国会図書館サーチでは「(文化財の名称)△修理△報告」あるいは「(文化財の名称)△修復△報告」(△はスペース)といったキーワードで検索すると見つかることが多いです。
2-2. 件名から探す
概ね2000年以降に発行された報告書には「保存・修復」の件名が付与されています(これ以前の報告書は付与されていない場合があります)。国立国会図書館サーチではキーワード欄に文化財の名称を入力し、絞り込み条件を開き、項目追加をクリックして、加えた件名欄に上記「保存・修復」を入力して検索することでこの時期の報告書を探すことができます。
2-3. 一覧から探す
現在までに刊行された全ての修理報告書を一覧できる資料はありません。いずれも部分的なものですが、以下の資料で報告書の刊行有無・書名を調べることができます。
全般
- 『読書案内国宝を知る本』(日外アソシエーツ 2001 【K1-G12】)
建造物編・絵画編・彫刻編の3巻構成です。2001年時点で指定されている国宝について、各作品の概要および参考図書を紹介しており、修理報告書がある場合には参考図書として挙げられています。
建造物
- 太田博太郎 著『日本建築史序説 増補第3版』(彰国社 2009 【KA71-J20】)
「日本建築史の文献」(pp.205-292)の建造物類型別の各章に1968年までに報告書が刊行された建造物の名称のみ列挙されています。1969年から1988年までに刊行された報告書は「国宝・重要文化財建造物修理工事報告書目録補遺」(pp.368-376)として都道府県別に建造物の名称のみ列挙されています。 - 日本建築史研究会 編『日本建築史文献目録 1987~1990』(文化財建造物保存技術協会 1996 【KA1-G3】)
「国宝・重要文化財建造物修理工事報告書目録」(pp.103-114)に1987年から1990年に発行された報告書の一覧が都道府県別に掲載されています。 - 新建築学大系編集委員会 編『新建築学大系 50』(彰国社 1999 【NA25-28】)
pp.263-270にこれまで修理工事報告書が発行された国・自治体の文化財建造物名が、「社寺・霊廟建築」「城郭建築」「書院・方丈・庫裏」「洋風建築」「その他」の順に都道府県別に記載されています。 - 『煉瓦造建造物の保存と修復』(国立文化財機構東京文化財研究所 2017)
2017年までに刊行された煉瓦造建造物の修理報告書の一覧が巻末に掲載されています。(電子ブックはHTML5版を閲覧してください)
また、以下の図書館のウェブサイトでは所蔵する修理報告書の一覧で書名を確認することができます。
3. 複数の修理報告をまとめた資料を探す
複数の修理報告をまとめた資料として以下の資料があります。
3-1. 建造物
- 『日本の民家重要文化財修理報告書集成』(東洋書林 1999-2001 【KA237-G148】)
- 『日本の民家重要文化財修理報告書集成 続』(海路書院 2007)
重要文化財に指定されている民家の修理報告書を集めた資料(正編は全11巻補遺2巻・続編は全8巻)です。国立国会図書館サーチでは文化財名称から掲載巻を検索することができます。
3-2. 美術工芸品
- 文化庁 編『指定文化財修理報告書』(文化庁)
各年度に行われた美術工芸品の指定文化財の修理報告をまとめた資料です。昭和40~45年度分と平成6年度~10年度分について発行されました。 - 東京国立博物館 編『東京国立博物館文化財修理報告』(東京国立博物館 2002- 【Z71-J597】)
同館が実施した修理事業について報告が掲載されています。 - 修理者協議会 編『美の修復 : 京都国立博物館文化財保存修理所創設10周年記念報告書』(修理者協議会 1990 【K275-E35】)
1980年~1990年までに同館で実施された修理事業のうち、15件について報告が掲載されています。巻末には「修復文化財一覧」が掲載されています。 - 京都国立博物館 編集『京都国立博物館文化財保存修理所修理報告書』(京都国立博物館 2006-)
同館で実施された国宝・重要文化財以外の修理について報告を掲載しています。1999年度分の事業から毎号1年度ずつ(4号のみ2002・2003年度の2年度分)扱っています。これ以前の修理報告等は『京都国立博物館学叢』【Z8-1618】に掲載されていることがあります。 - 奈良国立博物館 編『奈良国立博物館文化財保存修理所修理報告書』(奈良国立博物館 2019-)
同館で実施された国宝・重要文化財以外の修理について報告を掲載しており、平成29年度分の事業から毎号1年度ずつ扱っています。これ以前の修理報告等は『鹿園雜集 : 奈良国立博物館研究紀要』【Z71-D369】に掲載されていることがあり、国立国会図書館サーチでは記事名を検索することができるほか、奈良国立博物館リポジトリで公開されています。 - 九州国立博物館 編『九州国立博物館文化財修理報告』(九州国立博物館 2019-)
同館で実施された国宝・重要文化財以外の修理について報告を掲載しています。2019年刊は2002年度~2005年度分、2020年刊は2006年度~2008年度分、2021年刊からは以降2年度分ずつを扱っています。 - 『日本美術院彫刻等修理記録』(奈良国立文化財研究所 1975-1980)
戦前に日本美術院で行われた文化財の修理記録のうち、奈良県・京都府の仏像についての記録を翻刻した資料です。現在は日本美術院彫刻等修理記録データベース(奈良国立博物館)で全記録の目録を検索することができます。(画像データの閲覧は同館仏教美術研究センターで可能) - 楽浪文化財修理所 [編]『文化財修理報告書』(楽浪文化財修理所 1999- 【Z71-C565】)
発行元が修理した文化財について1999年以降年ごとにまとめています。Vol.1~Vol.10までの収録内容は同社ウェブサイトで確認できます。
4. 修理履歴を調べる
修理報告書を調べる際、いつ修理が行われたかという修理の履歴が一つの手がかりになる場合があります。以下は建造物の修理履歴を調べるためのツールです。
- 『国宝・重要文化財建造物目録』 (文化庁文化財部参事官 (建造物担当) 2012 【KA71-J47】)
2012年3月時点で指定されている国宝・重要文化財の修理履歴を調べることができます。 - 建造物修理アーカイブ(文化財建造物保存技術協会)
代表的な文化財建造物について基礎データと修理履歴を検索することができます。
美術工芸品についてはまとまった資料はありませんが、例えば住友財団は修理助成を行った文化財のリスト・図録を約10年ごとに発行しています。
- 住友財団 編『住友財団助成修復文化財図録 : 住友財団10周年記念』(住友財団 2002 【K16-H3】)
- 住友財団 編『住友財団助成修復文化財図録』(住友財団 2012 【K16-J960】)
- 泉屋博古館 編『文化財よ、永遠に = New life for timeless art : 住友財団修復助成30年記念』(住友財団 2019 【K275-M77】)
2011年度以降の記録は住友財団ウェブサイトでも確認できます。
5. 文化財保存・修理と関連する資料
5-1. 修理写真
上記で扱った修理報告書等には修理時の写真が掲載されていますが、それ以外に修理写真等を集成した資料も存在します。
- 奈良文化財研究所 編『国宝・重要文化財建造物写真乾板目録』(奈良文化財研究所 2004-2014)全6巻
奈良文化財研究所の所蔵する国宝・重要文化財建造物の昭和30年までに撮影された写真乾板の画像付き目録で、修理前後のものが含まれています。都府県別に排列されていますが、北海道のものはありません。現存しない建造物の写真を含みます。 - 山本勉, 東京国立博物館『明珍恒男撮影写真資料の美術史的研究-仏像彫刻修理写真を中心にー』(1995-1996 【Y151-H07451015】)
東京国立博物館が所蔵する、戦前期の仏教彫刻修理時に撮影された写真資料に関する科研費報告書です。写真も掲載されています。 - 奈良県文化財建造物保存修理事業写真(奈良県立図書情報館)
奈良県文化財事務所が所蔵していた明治30年代から昭和40年代の文化財修理時に撮影された写真を建造物ごとに掲載しています。
5-2. 現状変更説明
- 奈良文化財研究所 編『重要文化財建造物現状変更説明』(奈良文化財研究所 2003-)
重要文化財の修理の際、復原などの現状変更を行う場合に必要な届出のため、現状変更の内容や経緯をまとめた資料です。
5-3. 図集・設計資料
- 『国宝・重要文化財(建造物)実測図集』(1967-)
国宝・重要文化財建造物の実測図面を都道府県ごとに掲載しています。国立国会図書館サーチでは文化財名称から掲載巻を検索することができます。 - 『日本建築史基礎資料集成』(中央公論美術出版 1971-)
国宝・重要文化財建造物を中心とした重要な建造物について、類型別に調査・研究資料を集成しています。各建造物について写真・図面・解説を掲載しています。全25巻の計画で既刊は14巻です。国立国会図書館サーチでは文化財名称から掲載巻を検索することができます。
6. 当館以外の所蔵
当館に所蔵が無い報告書でも、各都道府県立図書館や大学図書館等で所蔵している場合があります。国立国会図書館サーチやCiNii Booksでも2-1.の方法で全国の所蔵を調べることができます。また、多数の報告書を所蔵する代表的な機関として以下があります。