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昭和14年度物資動員計画綱領

昭和14年5月26日 閣議決定

収載資料:現代史資料 43 中村隆英・原朗 みすず書房 1970.2 pp.410-415 当館請求記号:210.7-G29

第一章 総則
第一 昭和十四年度物資動員は本綱領に準拠し之を実施するものとす
第二 本綱領は昭和十三年九月十三日閣議決定「昭和十四年度国家総動員実施計画設定に関する件」に基き昭和十四年度に於ける重要物資の需要供給の関係を別冊「昭和十四年度重要物資需給対照及補填対策一覧表」の通定め計画実施上必要なる措置の大綱を定むるものとす
第三 本綱領は左の各号に重点を置き設定したるを以て実施に当り特に考慮すべきものとす
(一) 軍需の充足に努むること
(二) 凡ゆる施設を講じ輸出貿易の振興を図ること
(三) 長期戦に対応し将来の国防計画及大陸建設の基礎を培養する為生産力拡充計画遂行上必要なる物資の供給に努むること
(四) 大陸への物資供給に関し対満物資供給に付ては目下進行中の産業五年計画の遂行に資するを主とし対支物資供給に付ては治安維持、其の他事変処理上必要なる物資及資源開発又は物資取得上必要なる物資の供給を主とすること
(五) 国民生活水準の低下を覚悟し官需、民需に付強度の圧縮を加ふる反面に於て統制の強化に依り物資利用の合理化を図り以て最小限度の物資に依り国民生活の確保に努むること
第四 本綱領の実施に当りては物資需給関係の時期的変遷等を考慮し関係各庁の協議に依り概ね月毎又は四半期毎に実施計画を設定するものとす、之が為現在の企画院物資動員委員会の外必要に応じ適宜の連絡機関を設くるものとす
第五 本綱領に基き関係各庁は別に定むる所に依り物資の生産、配給、取得、消費等に関し各庁計画を設定し企画院に提出するものとす
第二章 物資供給力の保持及増進に関する事項
第六 本綱領に計画せる物資供給力の保持は計画遂行上必須の要件なるに鑑み其の実現に付ては所要物資の優先的配給を行ふ等万全の措置を講ずるものとす
第七 物資の供給に付ては本綱領計画数額に止めず更に其の増額に付十分なる努力を払ふものとし之が実現に当りては成るべく重要物資を要せざる様諸般の方策を講ずるものとす
第八 支那よりの物資取得に付ては現状に鑑み計画数額の確保並に増加に関し興亜院に於て現地機関と連絡の上、万全の措置を執るべきも現地の実状に応じては陸軍省又は海軍省に於て必要の措置を執るものとす
本綱領に計画せざる重要物資の取得に付ても亦前項に準じ積極的に方策を講ずるものとす
第九 在庫物資の利用に付ては本綱領に定むるものの外十分努力の要あると共に将来に於ける物資動員計画の実施を容易ならしむる為成るべく長期間に亘り最も有効に利用すること必要なるを以て之に関し万般の努力を払ふものとす
第十 物資現存額の調査は品種及場所の範囲を拡大し定期的に又は随時之を行ひ以て常に正確なる数額の捕捉に努むるものとす
第十一 代用品に付ては代用品工業の指導奨励に依り品質優良にして適正なるものの生産を増進し且其の普及徹底を図る様諸般の措置を講ずるものとす
第十二 物資の回収は第三国よりの輸入を減少し得ることを主なる目途とし内外地、官民各方面に亘り徹底的手段方法を採択するものとす
満洲及支那に於ける物資の回収に付ても右に準じ積極的措置を要望するものとし特に支那に於ける回収に付ては興亜院に於て現地機関と連絡の上、万全の措置を執るも現地の実状に応じては陸、海軍省に於て必要の措置を執るものとす
第十三 官営工場に於て生じたる屑及故並に陸海軍管理工場其の他の民間工場に於て官給材料にて製造又は加工したる場合の屑及故は一般供給力に加算するものとす、但し需要額提出に当り利用を予定しある屑及故は此の限に在らず
第十四 輪出貿易振興に付ては従来の諸方策の強化を期する外特に輸出向物資の内需及満支向供給を規制し合理的価格を以て輸出を強行する為必要なる法令を制定し且機構の整備を図るものとす
第三章 物資の配給に関する事項
第十五 物資の配給を合理的ならしむることは計画実施上最も重要なるに鑑み配給機構の整備と相俟つて其の実行の適正迅速を期するものとす
第十六 物資の供給力(輸入を含む)に増減ありたる場合は特別の事情無き限り其の増減額を本綱領に定めたる配当額に比例して割当つるものとす、之が為需要区分毎に厳重なる割当制度を設定し配給上に於ける区分を明瞭ならしむるものとす
第十七 同一用途の為二以上の物資を要するものに付ては物資間に於ける相互の調和を保持せしむる為計画の実施に当り用途別又は事業別に各種物資の配給数額を明瞭ならしめ要すれば適宜調整を加ふるものとす
第十八 今次新に設定したる農山漁村及鉱山労働者等に対する特免綿製品其の他特定物資に付ては供給先を指定して配給する如く特別の措置を講ずるものとす
第十九 外地及満支に対する供給物資中内地に於て加工の上、成品として供給するものに付ては其の主なるものに付素材に換算したる上一応配当しあるを以て実施に当りては内地製造能力の配分と関連して毎配当時期の素材配給数額を決定し実施の円滑を期するものとす
第二十 関係各庁は各種消費部門に対する物資の配給状況、之が影響対策等に対する調査を行ひ概ね四半期毎に左の区分に依り取纏め毎四半期経過後一月以内に企画院に提出するものとす
内地 公共団体に関する事項             内務省
農林水産に関する事項             農林省
船舶、電力、航空及電気通信に関する事項    逓信省
鉄道、軌道、車輌及自動事運輸に関する事項   鉄道省
医療に関する事項               厚生省
朝鮮、台湾、樺太、南洋               拓務省
満洲(関東州を含む)          陸軍省、対満事務局
支那                        興亜院
全般                        商工省
第二十一 官庁需要(陸海軍々需を含む)として各庁に於て物資を入手し又は物資割当証明書を発行したるときは四半期毎に其の品種数額を取纏め毎四半期経過後一月以内に内地に在りては商工省外地に在りては当該統轄官庁に通知するものとし商工省及当該統轄官庁は其の写を企画院に送付するものとす
前項の物資の範囲は別に之を定む
第二十二 公共団体に於て物資を入手し又は物資割当証明書を発行したるときは第二十一に準じ内務省に於て之を取纏め企画院に送付するものとす
第二十三 陸海軍省に於て充足軍需の為物資を取得する場合に於ては其の数額は概ね本綱領附属文書記載の範囲内とし此の場合に於ても第二十一に準じ取得の実状を通知又は送付するものとす、但し物資の種類に依りては充足軍需として計上し難きものあるを以て之が取扱に付ては別途の協議に依るものとす
第四章 物資の使用消費に関する事項
第二十四 物資の使用消費に関しては単に計画物資のみならず汎く一般の物資に付各庁に於て卒先して節約を励行するは固より国民精神総動員運動の強化徹底に依り国民の自覚を促し以て趣旨の貫徹を期するを要す、尚必要に応じては法令の発動に依り統制を強化するものとす
第二十五 物資の使用消費に関し供給力が著しく実需と均衡を失する虞ある場合に於ては機を失せず切符割当制等の適用に依り消費統制を断行するものとす
第二十六 物資の使用消費を経済的ならしめ併せて製造能率を向上せしめる為には原材料及成品に付其の標準化並に単純化を図ること極めて緊要なるに鑑み之が具体化に付速かに適切なる方策を講ずるものとす
第五章 統制機構其の他統制一般に関する事項
第二十七 物資の統制に付ては供給、配給、消費、価格に関する事項に亘り汎く中央、地方及内外地を通じ統制機構の整備拡充を図ると共に之が実施の適正徹底を期する為特に其の指導監督に関する機構を強化するものとす
第二十八 物資の供給及配給は実行の民間自治的統制機関を整備拡充して政府の指導に依り之を活用し以て所期の目的を達成するを主とするも必要に応じては国家総動員法其の他関係法令の発動に依り一層国家的統制を強化し其の徹底を期するものとす
第二十九 物資の最も有効適正なる使用を図り且我国重要産業の健全なる発達を期する為既設工場にして業績不良なるものの整理及重要物資を使用すべき工場の新増設の規制等に関し必要なる措置を講ずるものとす
第三十 価格の統制に付ては昭和十四年五月五日閣議決定「総合的物価対策の確立の件」に基き各庁に於て実行方策を樹立するに当り本計画実施の円滑を期する様特に方途を講ずるものとす
第三十一 民間統制団体及一般国民に対する指導監督の強化は現下の実情に鑑み必須の要件にして特に配給物資が所定の目的に使用せられありや又其の使用方法が物資不足の現状に鑑み適切なりや等に関し十分なる監督を為すを要す、而して之が為には第一線の統制経済指導監察機構を整備拡充するものとす
第三十二 輸出用物資の内需転用及品質の悪化を防止する為現行制度の整備拡充と相俟つて輸出用物資の製造加工過程中に於ける監督検査を徹底的に強化するものとす
第三十三 本綱領実施と並行して昭和十三年六月二十三日閣議決定「国家総動員上必要とする諸方策の徹底強行に関する件」の実施を促進する外更に左の諸政策の徹底を期するものとす
(一) 労務需要の不均衡を是正する為労務調整の徹底を期すること
(二) 輸送力不足の現状に鑑み各種輸送機関の全能力発揮を目途とする交通動員の徹底を期すること
(三) 資金調整の運用に当りては特に本計画と緊密なる連繋を保ち齟齬なきを期すること
(四) 不足資源の補填及重要資源の急速開発を目標とする科学研究の促進を期すること
(五) 物資配給統制の強化に伴ひ国民生活に及ぼす影響甚大なるに鑑み転失業対策其の他生活安定に関する諸般の施設の徹底を図ること
(六) 諸政策強行に付国民の自発的協力を求むる為国民精神総動員運動の強化且其の具体化を図ること

昭和十四年度輸入計画額(金額単位千円)
(表省略)