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南方経済対策要綱

昭和16年12月16日 閣議報告

収載資料:国家総動員史 資料編 第8 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1979 pp.524-526 当館請求記号:AZ-668-5

第一 方針
一、重要資源ノ需要ヲ充足シテ当面ノ戦争遂行ニ寄与セシムルヲ主眼トシ併セテ大東亜共栄圏自給自足体制ヲ確立シ速カニ帝国経済ノ強化充実ヲ図ルニ在ルモノトス
二、本要綱ニ於テ対象トスル地域ハ蘭印、英領馬来及「ボルネオ」、比律賓、「ビルマ」其他皇軍ノ占領地域(以上甲地域)、仏印、泰(以上乙地域)トス
三、甲地域ニ対シテハ対策ヲ二段ニ分チ第一次対策及第二次対策トシ夫々左ノ方針ニ依ルモノトス
(一)第一次対策
(イ)資源獲得ニ重点ヲ置キ之ガ実施ニ方リテハ戦争遂行上緊要ナル資源ノ確保ヲ主眼トス
(ロ)南方特産資源ノ敵性国家ニ対スル流出ヲ防止スベク凡ユル措置ヲ講ズ
(ハ)資源獲得ニ方リテハ極力在来企業ヲ利導協力セシメ且帝国経済力ノ負担ヲ最少限度ニ迄軽減セシムル如ク努ム
(二)第二次対策
大東亜共栄圏自給自足体制ヲ完成スルコトヲ目途トシ其ノ恒久的整備ヲ行フ
四、乙地域ニ対シテハ概ネ既定方針ニ基キ速カニ実数ヲ挙グル如ク措置シ甲地域ニ於ケル情勢ノ展開ニ依リ増加スベキ威圧ヲ利用シ重要資源特ニ食糧資源ノ確保其ノ他我方要求ノ貫徹ヲ策トスルモノトシ尚情勢急変セル場合ハ別ニ方針ヲ定ム

第二、甲地域対策要領
第一次対策
一、総則
(一)取得又ハ開発シタル物資ハ凡テ物資動員計画ニ組入ルルモノトス
作戦初期ニ方リテハ陸海軍ノ定ムル所ニ依リ所在ノ重要物資ヲ蒐集確保ス右物資ノ処理ニ関シテハ前項ニ同ジ
(二)物資開発ノ順位ハ戦局ノ推移ト資源ノ緊急度トヲ勘考シ中央ニ於テ之ヲ決定ス
(三)昭和十七年度ニ於ケル資源取得ノ基準並昭和十九年度ニ於ケル取得予想別紙第一及第二ニ示ス如シ
(四)現地石油及其ノ他鉱物資源開発ニ必要ナル人員、資金(差当リ予算ニ依ル)、資材等ハ差当リ原則トシテ陸海軍ニ之ヲ配当ス
(五)各地区不足資源ハ左ニ依リ充足ス
(イ)生活必需品ハ成シ得ル限リ自給ヲ計画シ
(ロ)努メテ南方相互ノ交流ニ依ル
(ハ)止ムヲ得ザルモノニ限リ帝国ニ依存ス
(六)右ニ基ク南方資源ノ相互交流ハ政府調整ノ下ニ現地中央陸海軍協議ニ依ルモノトス
二、開発
(一)石油
(1)開発ノ重点ヲ石油ニ置キ資金、資材等ノ優先配置其ノ他之ニ必要ナル万般ノ措置ヲ講ズルモノトス
(2)石油事業ハ初期軍ノ直営トシ状況之ヲ許ス限リ速カニ民営ニ移行スルモノトス。
(3)取得及輸送等ノ難易ヲ勘案シ適当ナル地域ヲ開発スルモノトシ併セテ特ニ航空揮発油適性油ノ取得ニ努ム
(4)現地製油ニ付テハ残存施設ノ状態ニ応ジ且日満ノ処理能力ト照合シ所要ノ施設ヲ復旧スルモノトス
(二)其ノ他鉱物資源
(1)鉱産企業ハ重点ニ開発力ヲ集中シ最少数ノ企業ニ依リ良好ナル能率ノ下ニ最大量ノ資源ヲ開発スルヲ主眼トス
(イ)能フ限リ速カニ現状程度ノ設備能力ヲ復旧シ更ニ進ミテ新規地点ノ開発企業ヲモ促進スベキモノ
ニッケル鉱、銅鉱、ボーキサイト、クロム鉱、マンガン鉱、雲母、燐鉱石、其ノ他特殊鉱原鉱石及非鉄金属(錫ヲ除ク)
(ロ)新規地点ノ開発企業ハ一時中止セシムベキモノ
錫鉱、鉄鉱石
(2)新ニ重要鉱物資源ノ開発ヲ担当セシムベキ企業者ノ選定ハ概ネ左記各項ノ趣旨ニ依ルヲ原則トス
(イ)一地点ノ資源開発ハ努メテ一企業者ノ専任トスルコト
(ロ)現地若クハ他ノ方面ニ於テ同種企業ノ優秀確実ナル経験ヲ有スルモノナルコト
(ハ)資源開発ニ必要ナル能力ヲ具ヘアルコト
(ニ)南方全般ヲ通ジ、同種資源ハ二以上ノ企業者ニ分担セシメ、一品種ヲ一商社独占ノ弊ニ陥ラシメザルコト、但シ特殊ノ資源ハ此ノ限リニアラズ
(三)農、林、水産業
(1)農、林、水産企業ハ特ニ必要ナルモノヲ除キ差当リ新ナル邦人企業者ノ進出ヲ抑止ス
(2)各地区毎ニ食糧資源ノ略 自給ヲ計ルニ努ムルモノトス
(四)工業
工業ハ特殊ノモノ(例ヘバ造船、資源開発設備ノ修理工場)ヲ除キ現地ニ培養セザルヲ本旨トス
但シ輸送量ノ軽減ニ効果大ニシテ設備ヲ現有スルモノハ此ノ限ニアラズ
三、通貨
能フ限リ速ニ現地通貨ノ利用ニ努ムルトスルモ
(一)当初ニ於テハ
(イ)軍票ヲ使用シ軍票ハ各地域別現地通貨表示ト為ス
(ロ)軍票ハ現地通貨ト等価ニ通用セシム之ガ為強行措置ヲ講ズ
(ハ)中央及現地ニ軍票ヲ処理スベキ機構ノ整備ヲ考慮ス
(ニ)主要ナル現地資源獲得及開発費ハ差当リ軍事予算ニ依ル
(二)占領地把握ノ段階ニ応ジ
(イ)現地発券制度ヲ可及的速ニ把握スルコトニ努メ之ト軍票制度トノ機能ヲ調整シ逐次統一ニ進ム右ニ伴ヒ現地通貨ニ依リ既発軍票ヲ回収セシム
(ロ)右ニ依ル統一乃至回収ニ伴フ決済ハ原則トシテ以下ニ依リ処理ス
(1)発券銀行ヨリノ借上金、起債等ノ手段ヲ用フ
(2)敵性資産ニシテ没収スベキモノヲ充当ス
(3)政庁又ハ公共団体等ニ国防費分担金ヲ命ズ
(ハ)主要ナル現地資源ノ獲得及開発資金ノ調達ニ付テハ追テ別ニ之ヲ定ム
(三)現地ニ於ケル為替管理ヲ可及的速ニ整備シ資金ノ移動ヲ統制ス
備考
(イ)(一)ノ(ロ)ニ関シ差当リ軍票ガ現地通貨ト等価ニテ流通スルヲ促進スル為軍票ニ依ル物資購買等ヲ円滑ナラシムル様適当ナル措置ヲ講ズ
(ロ)予算上軍票ト日円トハ差当リ比率一対一トスルモ現地物価ノ実状ニ応ジ予算ノ編成上並ニ経理上考慮ヲ払フト共ニ予算ノ実行ニ付各地域別区分計画ニ努メ諸般ノ施策ニ齟齬ナカラシム
(ハ)軍票ノ発行ヲ可及的ニ減少セシムル為一般通貨ノ外鉱山農園等ノ敵国財産ヲ没収シ及敵国人財産(華僑ヲ除キ又国別報復主義ニ依ル)ヲ管理(敵性アルモノハ没収)シ之ニ依ル物資獲得ニ努ム
(ニ)通貨工作ニ即応シ政庁財政ニ対スル把握指導ニ努ム
(ホ)国防分担金ノ標準ハ概ネ従来ノ国防費並ニ従来本国ニ支払ヒタル官吏恩給金、資本利息、其ノ他各種負担等貿易外支払額ヲ目途トスルモ能フレバ其レ以上分担セシムルニ努ムルモノトス
四、蒐貨、配給、交易
(一)蒐貨物資ノ対日供給ハ差当リ政府ノ会計ニ於テ買収輸入ヲ為ス
対現地供給物資ノ輸出ニ付亦同ジ
右輸入ニ付テハ原則トシテ本邦統制機関ト緊密ナル連繋ヲ保持スルモノトス
(二)現地ニ於ケル重要物資ノ中間蒐貨及配給ニ於テハ極力華僑及現地商人ノ信用及組織ヲ活用シ自由取引ノ方式ヲ採ルモノトス
(三)本邦業者ヲ中間蒐貨及配給ニ活動セシムルトキハ前項ノ趣旨ニ則シ組織的ニ配置シ漸進的ニ之ガ発展ヲ助長ス
(四)対現地供給物資ノ配給ニ付テハ現地中間機構ノ活用ニ努ムルモ鉱山農園等対日供給物資ヲ生産スル作業場従業員ニ対シ優先的ニ且ツ計画的ニ配給スルモノトス
(五)現地相互間ノ物資交流ニ付テモ右各項ニ準ズルモノトス
五、輸送
(一)南方方面ノ輸送ニ充当シ得ベキ船腹ハ毎月陸海軍ニ之ヲ配当ス
(二)徴傭船腹ヲ資源輸送ニ活用ス
(三)現地ニ於テ押収セル船舶ハ五百噸以上ノモノハ中央ノ処理ニ移シ、五百噸未満ノモノハ中央ノ指示ニ基キ之ヲ活用ス
(四)輸送スベキ南方資源ハ重要度ヲ顧慮シテ輸送ノ順序、数量ヲ定ム
六、資源調査及研究
(一)資源ノ調査研究ハ夫々陸海軍ノ定ムル所ニ依リ之ヲ行フ
(二)資源調査ノ重要資源名左ノ除シ
(1)ニツケル、銅、コバルト、モリブデン、タングステン、バナジウム、鉛
(2)亜鉛、水銀、マンガン、クロム、雲母
(3)ボーキサイト、含ニツケル鉄鉱、石油
(4)タンニン材料、牛皮
(三)研究項目ノ主要ナルモノ左ノ如シ
綿花(目標約三〇〇万担年産)、黄麻及ワツトル樹ノ栽培、緬羊ノ飼育
七、対米英経済圧迫
対英米経済戦ニ資セントスル物資左ノ如シ
ゴム、錫、石油、キナ、タングステン、マニラ麻、コプラ、パーム油
八、陸海軍現地自活
(一)軍自活現地物資ハ軍作戦ノ必要ニ依リ決定セラルベキモ主トシテ左ノ品目ト予想ス
(1)食糧及馬糧(努メテ現地物資ノ蒐集ニ依ル)
(2)燃料
(3)被服建築材料ノ一部
石油ノ如キ重要物資ニ在リテハ極力節用スルハ勿論物動計画ニ基キ軍中央ヨリ配当セル範囲内ニ於テ使用スルモノトス
(二)軍現地自活ノ為工業ヲ要スルトキハ既存設備ニ依リ軍ニ於テ自営スル程度ニ限定スルモノトス

第二次対策
大東亜共栄圏自給自足体制ノ完成ヲ目標トシ国土計画的基礎ノ下ニ邦人ノ南方ニ於ケル経済発展ヲ助長シ且共栄圏諸地域相互間ノ経済的交流ヲモ進捗セシムルヲ主眼トシ其ノ詳細ハ別ニ之ヲ定ム

第三、乙地域対策
概ネ第五委員会決定ノ施策ニ依ルモノトシ情勢ニ応ジ改訂ヲ要スベキトキハ別ニ之ヲ定ム
海上輸送ニ関シテハ甲地域ニ準ズ
(別紙第一及第二ハ添付省略ス)