17年下期石炭対策要項
閣議決定年
昭和17年10月2日 閣議決定
収載資料:石炭国家統制史 日本経済研究所 1958.7 pp.321-323 当館請求記号:567.9-N685s
1 炭砿経営対策
(1)増産に対する熱意の鼓吹 官庁石炭統制会及び業者は三位一体となり炭砿の職員及び労務者に対し皇軍将兵の意気を以て一路増産に勇往邁進するの覚悟を促し似て炭砿の士気の昂揚を図ること
(2)企業最高幹部の陣頭指揮の促進企業最高幹部をして随時親しく現場に赴き率先垂範以て戦時下石炭砿業の負担せる重大使命を貫徹するの気魄を以て炭砿の総力発揮に万遺憾なきを期せしむること
(3)下期石炭買入補償金の増額 上期における買入補償金の残額を差当り下期に充当交付することとし日本石炭株式会社の買入炭価の引上げをなすこと
(4)金融の円滑化 日本石炭株式会社をして一層積極的に金融を行わしめ以て真に石炭砿業に対する専門的金融機関たるの実を挙げしむること
(5)重点主義の強化 炭種,出炭能力,輸送状況等を勘案し同一企業内における労務及び資材の重点的配置を断行せしむること
なお必要に応じ企業相互間における労務及び資材の相互融通についても適切なる措置を講ずること
(6)創意工夫の発揚 労務の能率増進,資材の有効使用,代用品の活用その他経営の改善につき全面的に業者の創意工夫を発揚せしむること
2 生産対策
(1)資材の確保 鋼鈑,鋼管,銅製品等の生産資材の絶対必要量を確保すると共に之が納期の促進を図るため万全の措置を講ずること
(2)設備及装置の整備 増産に対処するため採炭用,運搬用,動力用,照明用・保安用,選炭用等坑内外諸設備及諸装置を急速に整備せしむると共に掘進の促進を図らしむること
(3)坑内の整備 作業場の集約に依り労力の節約,通気及び運搬の合理化を図り以て能率を向上せしむるため不用坑道を撤収し坑内の整理を行わしむること
(4)職場の清掃整頓 従業員をして清潔明朗なる雰囲気の下に作業せしめ以て能率及保安の向上を図るため職場の清潔整頓を励行せしむること
(5)現場係員の養成 現場係員に優秀なる人材を求むるため之が待遇を改善すると共に修養道場に於ける錬成,入出坑時,休日等を利用する訓練等を実施すること
(6)労務者に対する作業上の基本教育 未熟練労務者に対し作業上の基本知識を授け以て能率の向上に努めしむること
(7)保安の確保 爆発,自然発火,坑内出水,落盤等の災害の防止に格段の努力を傾注せしむると共に炭砿救護隊及びこれが訓練施設を整備拡充せしむること
(8)特別奨励金の交付 上期に対する下期の送炭増加量につき特別奨励金を交付すること
3 労務対策
(1)労務者の充足
(イ)一般青壮年の充足 一定数の内地人一般労務者を確保するため之に減員を生じたる場合は国民職業指導所及び国民動員協力員は速に在郷炭砿稼働経験者に重点を置き一般青壮年労務者の供出を行い之を補充するに努むること
(ロ)勤労報国隊供出 勤労報国隊の供出により最も窮迫せる坑内労務の充足を図ることとし其の供出の時期,期間等に関しては実情に即し適当措置するものとすること尚供出に当りては一定の供出地よりの勤務報国隊はなるべく一定の炭砿に供出するが如く供出地と炭砿との連繋を密接ならしめ相互に意思の疏通を図り得る様考慮すること
(2)労務者の定着
(イ)職業労働関係法令の励行 労務調整令国民労務手帳法,賃金統制令等の励行を図り以て移動の防止を期すること
(ロ)ブローカーの不法行為の取締 悪質ブローカーの取締を徹底し以て炭砿労務者の引抜を防止すること
(3)労務管理の刷新
(イ)労務管理の徹底 労務管理は炭砿における生産の重大要素なるに鑑み重役,所長以下上司は挙げて労務管理者たるの気構を以て率先指揮の任に当り労務管理の徹底を期せしむること
(ロ)作業と生活との一貫的管理 現場係員との関係を密にし作業と生活との一貫的管理を行い挙砿一致能率の向上を期せしむること
(ハ)規律の確立 職場における規律を確立し軍隊的秩序の下に有機的一体たるの実を挙げ以て鉱業報国精神の透徹を期せしむること
(ニ)就業能率の向上 就業時間,交替制休日,賃金支払方法等の改善により就業率の向上及び能率の増進に努めしむること
(ホ)慰安娯楽 労務者をして常に溌刺たる心身を以て作業に従事せしむるため慰安娯楽につき一層の工夫を講ぜしむること
(4)賃金及給与
炭砿労務者の収入に付てはその地下労働たるの特質に鑑み一般地上産業労務者の収入に比し均衡を失せざる特別の措置を講ずること
4 食糧及作業用必需品対策
(1)食糧の増配 米麦,雑穀,味噌,醤油,塩,油等の食糧の増配に努むること
(2)作業用必需品の増配 作業衣,脚絆,地下足袋,石鹸等の作業用必需品の増配を行うこと
(3)炭砿購買会の積極的活用 炭砿購買会に関する昭和17年1月26日付農林商工両次官の趣旨の実現を期し購買会をして炭砿における専門的配給機関たるの実を挙げしむること
5 輸送対策
(1)下期必要配給量の確保 各種の方策を講じ出炭の増加を図るのほか下期必要配船量の確保を図ること
(2)機帆船の適正 配船機帆船は石炭輸送に於て極めて重要なる地位を占むるものにして石炭の計画配給に付ては機帆船の適正配船を不可欠の要件とするものなるを似て機帆船の統制を強化すること
(3)輸送及荷役の能率向上 配船の合理化,荷役の促進に依る滞船の回避その他船舶通航能率の向上を図ること
(4)貨車輸送力の増強 石炭の海上輸送を極力貨車輸送に切換うることとし之に必要なる貨車輸送力の増強を図ること
6.実施要綱
(1)本対策の成果を挙ぐるため優良炭砿優良幹部及び従業員並びに優良勤労報国隊の表彰等を考慮すること
(2)本対策の趣旨徹底を図り之が実効を挙げんがため企画院,商工省,内務省,農林省,逓信省,鉄道省,厚生省,石炭統制会及び大日本産業報国会共同主催の下に昭和17年10月3日より昭和18年3月31日まで挙国石炭確保運動を実施すること
注:日付は公立公文書館公文書目録検索サブシステムによる。