政府支払の削減に関する司令部覚書に対して差当り採るべき措置要領
閣議決定年
昭和22年10月24日 閣議決定
収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第17巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1981 pp.1001-1002 当館請求記号:DG15-19
九月十二日付首題司令部覚書は闇物価および不当なる高賃銀に対する政府の支払を禁止し当面する財政の危機を打開せんとする司令部の好意に出たものであるから、政府においては直ちに右覚書に対応し、その趣旨を体して予想せられるあらゆる困難圧迫を排除し、関係各庁一致協力して政府自身の闇行為を根絶するため差当り左記方針により処理するものとする。
一、政府はその契約の締結又は支払に際しては前記覚書に従い強力に左記事項を遵守すること。
(一)政府の購入する物品の価格並にその契約する各種工事又はサービスの代金を構成する資材若くは製品の価格又は労務以外の役務の対価は厳に公定価格(物価庁長官または物価庁長官からその権限の一部の委任をうけた地方物価事務局長若くは都道府県知事が物価統制令の規定に基いて設定する統制額)によるべきこと。
なお、物資労務等の数量を水増しその他名目の如何を問わず前項の規定に実質的に違反するような行為をしないこと。
(二)右の公定価格のうちには物資統制令第三条第一項但書の規定による例外許可価格を含むものとするが、物価庁長官、地方物価事務局長または都道府県知事が例外許可を認めるのは、そのものの規格、品質、包装等が特別優秀であって、統制額設定の前提となっている規格、品質、包装等と異るとき、又はその材料等の運送について特別の失費を要する等特別の理由によって、統制額を超えた価格を認める必要がある場合に限ることとし、進駐軍用物品であると否とによって取扱を異にすることはしないこと。
なお、例外価格を認める場合においても統制額設定の場合におけると同一の価格算定方式によって厳格に査定し更に類似品の価格との均衡をも考慮して適正に決定すること。
(三)各種職階の進駐軍直傭者並に進駐軍関係設営工事(賠償関係作業を含む、以下同じ)施設の維持、補修、運用その他のサービスおよび日本側公共事業に従事する労務者に対する賃銀の支払は主務省が司令部の承認をうけた方法によって決定した額を超えてはならないこと。
(四)賃銀支払に関する中間利潤を排除するため、政府はあらゆる支払において、当該支払中に含まれる労賃が、正当な控除を除くのほか全部労務者に支払われたことを確認すること。
二、前項各号を遵守しつつ所要の調達を能う限り完全に遂行するため左の措置を講ずること。
(一)政府の物資の需要はすべて一般国民経済的見地から策定された物資需給計画によるものとし、進駐軍関係については部門毎に区分した計画を責任官庁において司令部と打合せの上樹立し、右計画の限度内においてのみ政府支出を行い得る体制を確立すること。
(二)所要の配給統制資材は前記物資需給計画に則り、すべて官給または政府の割当配給によること。但し業者手持品の利用については、それが公定価格を以て使用されることを条件としてこれを認めること。
(三)前記計画に計上された直接または間接の政府需要物資は担当官庁において、責任を以て生産を促進し、割当の現物化に努力すること。
政府の需要その他特に緊急の需要に充てるため已むを得ない場合には、物資担当官庁は需要物資の生産者又は保有者に対し、生産命令、出荷命令、譲渡命令、強制買上等の措置を講ずること。
(四)公定価格または一般賃銀水準に違反する政府の契約または支払については、その責任の帰属について特別の法制的措置を講ずること。
(五)正当な政府の支払については、更にこれを促進する措置を講ずると共に政府の支払は自由支払とすること。
(六)労務用物資の配給その他労務者の確保に必要な措置を講ずること。
(七)一般流通秩序の確立に努め、政府以外の部門における公価違反をも徹底的に取締ること。
(八)前各号の厳正な運用を確保するため、物資、物価および労働の各責任官庁のほか、各省、各庁は夫々事業または契約の責任者として所要の監視および監督の責に任ずるものとし、支払および契約等の計画の承認制度、小切手認証制度、法律第六十号による検査制度の活用を図ること。
三、司令部に対して左の事項を懇請すること。
(一)流通秩序が確立していない現在、政府の支払を完全に公定価格のみによることは、政府の事業を相当困難にする事実のあることは否めないが、政府においては、闇を根絶するため本指令を強力に遵守し、決してこれに違背することのないよう決意しているので、進駐軍関係諸工事および物品調達等において差当り起ることを予想される困難については、能う限り理解ある態度をとられ、その趣旨を出先各軍の末端にまで徹底せしめられたいこと。特に日本側関係者が本指令を忠実に実行する上において摩擦を生ずることのないよう措置せられたいこと。
(二)進駐軍関係の物資の需要に対しても、闇による入手を根絶するため、すべてこれを司令部の承認を得て決定する物資需給計画に組入れた上、その限度内において供給することと致したいから、右需要量が国民経済全体の見地から見て著しく均衡を失するようなこと、又は実際の命令が右計画の限度を超過して発せられることのないようにせられたいこと。
(三)進駐軍関係設営工事、施設の維持、補修および運用その他のサービスに要する資材については官給を原則とし、すべて進駐軍用物資として軍用倉庫又は政府倉庫に納められた資材から充足するものとし、一切の作業に関する命令は右資材の範囲内で発せられたいこと。
(四)政府において本指令を遵守し得るように左の措置をとられたいこと。
(1)物資需給の困難な日本経済の現況を深く認識され工期および納期は経済速度を考慮して定められたい。
(2)諸工事および物品調達の計画については少くとも一・四半期前に責任庁に通告し、その計画の円滑な運営を可能ならしめると共に、実際の命令が右の通告された計画を超えて発せられないようにせられたい。
(3)施工について季節、気候等の条件をも考慮し、適当な時期に命令を発せられたい。
(4)設計は当初から完全なものとし、設計変更、追加工事等は極力避けられたい。
(五)納入済物品、完了済または継続中の工事等については、適当な経過的措置を講ずること。
備考
この措置は公団、特別調達庁等についても実施するものとし、これらに対しては、夫々の監督庁において所要の監視または監査の措置を講ずるものとすること。