中小企業対策要綱
閣議決定年
昭和22年11月7日 閣議決定
収載資料:内閣制度九十年資料集 内閣官房編 大蔵省印刷局 1976.3 pp.1033-1035 当館請求記号:AZ-332-6
第一 趣旨
中小企業は我国経済発展の特殊事情により産業構成上極めて大なる比重を占めているが更に今後中小企業によらざるを得ない人口は益々増大する必然的趨勢にある。故に中小企業対策は我国において特に経済的且(国立国会図書館注)つ社会的重大問題である。
一方物資需給状況の極度に逼迫せる現状においては企業生産の効率性に主眼をおく資材の有効活用を図ることが必要である。
又他方貿易の再開に当り、中小企業の現状を思うときその技術及び経営の急速なる高度化を図ることが緊急の課題である。
政府は中小企業問題の困難性を深く認識しつゝ、しかも私的独占の禁止と不当な取引制限の排除とにより確保せられる自由公正な競争経済下において中小企業の健全な発達を図ることが我国経済再建の真の基盤なることを固く信ずるが故に、今後これに最善の努力を傾注し、一般中小企業に対し業種の選択、経営の能率化、技術の改善等につき適切なる指導を与えると共に前途困難を思料せられるものに対しては国内及び国際経済事情に照し適当なる分野への転換を懇切に勧奨する等によつて、中小企業にひろく活動の機会を与え、国内及び国際経済の発展に資せんとするものである。
これがため左の方法による対策を強力且つ着実に実施する。
第二 措置
一 技術向上の指導強化に関する措置
(一) 中央及び地方の中小企業指導機構を強化し中小企業総局(仮称)の新設、各商工局及び都道府県経済部の拡充並びに中小企業相談所の新設等技術に関する専門家を包容し、一般的並びに個別的技術指導の中核たらしめる。
(二) 一般中小企業の指針とすべき科学技術方法の研究を行う。
(三) 相互啓発による中小企業の発達を推進するため、展示会、見本市等の施設を積極化し、優良品に対しては表彰の方法を講ずる。
(四) 特に実地教育に主眼をおき、講習会を行う。
(五) 海外及び国内における優秀技術の導入、その他参考資料の蒐集に努力する。
(六) 輸出産業として適当と認められる伝統的郷土産業の振興を図る。
(七) 中小企業における優秀な発明、考案を育成してその工業化を奨励する方途を講ずる。
(八) 試験研究機関の技術及び機能を一層活用することに努める。
(九) 中小企業者による試験研究機関の利用を積極化する。
二 経営の能率化の推進に関する措置
(一) 中央及び地方の中小企業指導機構を強化し経営に関する専門家を加え一般的並びに個別的経営能率指導の中核たらしめる。
(二) 資材、燃料、動力等の合理的使用の徹底化を図り原単位効率の向上を期する。
(三) 一般中小企業の指針とすべき経営能率化の方法を講ずる。
(四) 原価計算制度の普及徹底その他経理の改善により経営能率の向上を計る。
(五) 科学的、能率的経営方法の普及徹底を図るため随時講習会を開催し特に実地指導に主眼をおく。
(六) 中小企業に対し、金融を円滑且つ容易ならしめる方法其の他金融に関する諸般の事項につき指導を行う。
三 審査制度の確立に関する措置
(一) 中小企業の技術及び経営の水準を向上させるため審査制度を確立する。審査制度は、資材、資金、労務等の最も有効な活用並びに生産及び配給の効率化を図ることを目的として、企業の生産要目のすべてについて検定その他必要な審査を行うものとする。
(二) 審査制度の実施に当つては、これを単なる審査に止めずその個個の結果を直ちに技術及び経営の具体的指導に結びつける。
(三) 審査は業者の申請によつてのみ行う。
四 中小企業指導機構の強化に関する措置
一乃至三に掲げた事項を実施するため次のように中小企業指導機構の新設又は強化を図る。
(一) 中小企業総局(仮称)の設置
中小企業問題の特殊性と重大性に鑑み、政府部内に中小企業総局(仮称)を設け、中小企業に関し総合的責任を有する機関とする。
その概要は左の通りとする。
イ、中小企業総局(仮称)は商工省に置き、独立のものとし、政府部内における一切の会議及び国会において中小企業の代弁者たるべき次官格の長官をおくものとする。
ロ、中小企業総局(仮称)は、一乃至三に掲げた事項を実施する責任あるものとする。
ハ、中小企業総局(仮称)には中小企業に関する経営、技術、金融、調査統計等諸般の事項についての専門家を包容する。
(二) 各商工局、都道府県における中小企業指導機構の強化
イ、中小企業総局(仮称)の設置に併行して、各商工局の機構を拡充し中小企業指導に関する新部処を設ける。右部処は中小企業指導に関し地方事情に特に留意するものとする。
ロ、各商工局の拡充に併行して、現在の都道府県の商工行政担当部局内に中小企業指導に関する部処を設けることを勧奨する。
(三) 中小企業連絡調整委員会の設置
商工省及び各商工局に中小企業連絡調整委員会を設け中小企業の指導に関する連絡調整を行わせる。
(四) 中小企業相談所の設置
各都市に中小企業者のための法律、経済問題及び経営、技術に関する事項等の相談に当らせるため中小企業相談所の設置を勧奨する。
第三 政府は本措置の急速な、実効を期するため必要な法制的及び予算的措置を講ずる。
(国立国会図書館注)収載資料には「具」とあるが、国立公文書館蔵の原資料には「且」とある。