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税制改正に関する基本要綱

昭和25年1月17日 閣議決定

収載資料:昭和財政史 終戦から講和まで 第18巻 大蔵省財政史室編 東洋経済新報社 1982 pp.216-217 当館請求記号:DG15-19

第一 方針
昭和二十五年度の税制改正については、概ねシャウプ税制使節団の勧告の基本原則に従うこととするが、更に一層実情に即するようこれに適当と認められる調整を加えて税制の合理化及び租税負担の軽減適正化を図るものとすること。

第二 要領
一 所得税
(一)所得税負担の軽減合理化を図るため、控除及び税率を次のように改めること。
(1)基礎控除 年二万五千円(勧告二万四千円 現行一万五千円)
(2)扶養控除 所得控除年一万二千円(勧告同上 現行税額控除一、八○○円)
(3)勤労控除 百分の十五、最高三万円(勧告百分の十、最高二万円、現行百分の二十五、最高三万七千五百円)
(4)税率
五万円以下の金額    百分の二十
五万円をこえる金額   百分の二十五
八万円をこえる金額   百分の三十
十万円をこえる金額   百分の三十五
十二万円をこえる金額  百分の四十
十五万円をこえる金額  百分の四十五
二十万円をこえる金額  百分の五十
五十万円をこえる金額  百分の五十五
(勧告三十万円をこえる金額 百分の五十五)
(二)所得税制について、扶養親族の範囲の拡張、所得合算制の縮小、不具者、医療費及び雑損の特別控除、譲渡所得の計算方法の改正、変動所得に対する平均課税、損益通算及び損失の繰越繰戻、配当所得に対する課税方法、申告及び納期の改正等について適当と認められる改正を行うこと。
二 法人税
(一)法人の租税負担を軽減合理化するため、超過所得及び清算所得に対する法人税を廃止し、あらたに積立金の増加額に対する課税(原則として百分の二)を行い、普通所得に対する法人税の税率は、百分の三十五(現行一般法人百分の三十五、特別法人百分の二十五)とすること。
(二)公益法人の収益事業に対する課税、他の法人から受ける配当等の控除、損金の繰越繰戻、固定資産の減価償却、棚卸資産の評価方法、貸倒準備金等について適当と認められる規定を設けること。
三 相続税
(一)被相続人又は贈与者の財産について総合して課税する制度を根本的に改正して、相続及び贈与に因る財産の取得者に対し、取得者ごとに分割して、その一生を通ずる取得財産の累進額を課税標準として課税すること。
(二)相続税負担の軽減を図るため、控除及び税率を次のように改めること。
(1)基礎控除 年十五万円(現行五万円)
(2)少額控除 年三万円(現行年三千円)
(3)税率
二十万円以下の金額百分の二十五乃至五千万円をこえる金額百分の九十
(三)あらたに配偶者二分の一控除、未成年者控除等を設ける外、公益事業等に対する寄附について、原則として非課税とすること
四 富裕税
(一)財産価額が五百万円をこえる者に対して、あらたに所得税の補完税として、富裕税を創設し、次の税率により課税すること。
五百万円超   千分の五
千万円超    百分の一
二千万円超   百分の二
五千万円超   百分の三
(二)国又は地方公共団体において公用又は公共の用に供する家屋及び物件、国宝、重要美術品等、生活に通常必要な家具、什器、衣服その他の動産は、これを非課税とすること。
(三)毎年十二月三十一日を課税時期とし、翌年二月一日から二月末月までに申告納税するものとすること。
五 通行税
三等乗客に対する課税(現行普通運賃百分の五、急行料金等百分の二十)を廃止し、一、二等運賃に対する税率を百分の二十(現行普通運賃百分の五急行料金等百分の二十)とすること。
六 有価証券移転税
有価証券移転税は、これを廃止すること。
七 酒税
極力酒類の増石により増収を図ることとし、清酒その他の酒類については、地方税たる酒消費税を統合し、各酒類間の権衡を考慮し、概ね小売価格が次の程度になるように、税率を改正すること。
清酒    特級 一、一六〇円(現行 一、一四〇円)
清酒    一級 九五〇円(現行 九一〇円)
清酒    二級 六五〇円(現行 六四〇円)
合成清酒  一級 六七〇円(現行 六四五円)
合成清酒  二級 五〇〇円(現行 五二五円)
焼酎       四六〇円(現行 四二五円)
麦酒       一三〇円(現行 一二五円)
八 資産再評価及び再評価税
(一)企業をして適正妥当な減価償却を可能ならしめ日本経済の再建と企業経理の合理化を図るととともに、法人及び個人を通じてインフレーションによる値上り所得を排除調整する等のため、資産再評価を行うこととし、この場合における課税上及びその他の法令上の特例その他の措置を講ずる外、再評価差額に対し百分の六の税率により再評価税を課すること。
(二)事業用資産についての再評価は、これを任意とすること。
(三)再評価税の納付を困難とする者については、延納の特例を認めること。
九 租税執行に関する制度の改正
租税負担の公平を期するためには、税制の合理化と相まって、税務行政を改善し、徴税能率を増進せしめることが緊要である点に鑑み、租税執行に関する制度について、次の諸点を改正すること。
(一)一定の帳簿を記載している納税者に対しては、青色申告書の提出を認めることとし、この場合においては、更正決定、損失の繰越、繰戻等について特別の取扱を認める。
(二)予定申告に際して、原則として前年の所得金額を基準とする制度を設けること。
(三)異議処理については、専門の協議団を設置する等の方法を設けその適切迅速なる処理を図ること。
(四)有価証券等に関する所得税等の課税の適正を図るため、所要の規定を整備すること。
十 その他
(一)外国人及び外資に対する課税の臨時特例を設けること。
(二)土地台帳及び家屋台帳に関する事務は、この際税務署から登記所に移管すること。
(三)従来の加算税及び追徴税に関する規定を実情に即するよう改正するとともに、無申告犯に対する罰則の規定を設ける等罰則を整備すること。
(四)国税徴収法その他の規定に関し所要の整備を行うこと。