警察制度改正要綱

昭和29年1月14日 閣議決定

収載資料:資料戦後二十年史 1 政治 辻清明編 日本評論社 1966 pp.312-313 当館請求記号:210.76-Si569

一 目的
個人の権利と自由を保障し公共の安全と秩序を保持する民主警察の理念を基調として警察管理の民主的保障を確保すると共に,我が国情に即した警察組織により治安の保持とその責任の明確化を図る目的を以て現行警察制度を改正する.
二 中央機構
(1)内閣総理大臣の所轄の下に国家公安委員会を置き,委員長及び五人の委員を以て組織する.委員長は国務大臣を以て充て,委員の選任方法等は概ね現行の国家公安委員会の通りとする.但し,資格の制限は緩和する.
(2)国家公安委員会の管理の下に国の治安事務を中心とする別記の特定事項を掌る警察庁(仮称)を置く.
(3)警察庁に長官を置き,一般職の官吏とし,内閣総理大臣が国家公安委員会の意見を聞いて任免する.
国家公安委員会は,内閣総理大臣に対し,長官の懲戒罷免の勧告をすることができる.
(4)長官は,国家公安委員会の管理下に庁務を統括し,警察庁の所掌事務につき都道府県警察を指揮監督する.
(5)警察管区本部は,警察庁の地方支分部局たる管区警察局(仮称)に改め,七局(仙台,東京,名古屋,大阪,広島,高松,福岡に置き,札幌を廃止する)とし,その組織を簡素化(現行五部制を三部制に改める)する
三 地方機構
(6)都道府県に都道府県警察を置き,国家地方警察及び市町村自治体警察は,廃止する.
(7)都道府県知事の所轄の下に都道府県公安委員会を置き,その委員の数,選任方法等はすべて現行通りとする.但し,資格の制限は,緩和する.
(8)都道府県公安委員会は,都道府県警察を管理する.
(9)都道府県警察の長(これに相当する警視正以上の者を含む)は国家公務員とし,その他の職員は地方公務員とする.但し,職員の任用,服務等に関し,特に必要な事項については特例を定めるものとする.
(10)都の警察長(警視総監)は,内閣総理大臣が国家公安委員会の意見を聞いて任免する.
都公安委員会は,内閣総理大臣に対し,警視総監の懲戒罷免の勧告をすることができる.
(11)道府県警察長は,長官が国家公安委員会の意見を聞いて任免する.
道府県公安委員会は,長官に対し,道府県警察長の懲戒罷免の勧告をすることができる.
(12)都道府県警察長は,都道府県公安委員会の意見を聞いて警察職員を任免する.
都道府県公安委員会は,都道府県警察長に対し,警察職員の懲戒罷免の勧告をすることができる.
(13)北海道警察には,その下に数個の方面隊を置き,その長の身分,任免等は,道府県警察長の場合に準ずる.
道公安委員会の管理する事務を分掌せしめるため,方面隊ごとに方面公安委員会を置く.
四 経費負担その他
(14)都道府県警察に要する経費は,原則として都道府県の負担とする.但し,国家公務員たる警察職員の給与等に要する経費及び教育,通信,鑑識,装備その他国家的警察事務活動等に要する経費は,国庫の支弁とする.
(15)都道府県警察費については,人件費を除き,特定の割合又は種類により国庫が分担する.
(16)地方公務員たる警察職員の給与等は,国家公務員たる警察職員の例に準じて定めるものとする.
この場合,改正により著しく不利益をこうむる者に対しては当分の間調整額を支給する措置を講ずるものとする.
(17)国と都道府県と市町村との間における警察用財産の移転については,相互の協議によるものとする.この場合,市町村から国又は都道府県に移転する財産のうち,当該市町村の区域外の警察の用にも供するものその他特別の事情のあるものは,有償とすることができるものとする.
(18)改正警察法の施行期日は,昭和二十九年七月一日を目途とする.
別記
警察庁の所掌事項
一 左に掲げる事案で国の治安に係るものについての警察運営に関すること.
イ 民心に不安を生ずべき大規模な災害に係る事案
ロ 地方の静穏を害するおそれのある騒乱に係る事案
ハ 国の利害に係り又は国内全般に関係若しくは影響のある事案
二 国家非常事態に対処するための計画及びその実施に関すること.
三 警察に関する諸制度の企画及び調査に関すること.
四 警察に係る国の予算に関すること
五 警察職員の勤務及び活動の基準に関すること.
六 警察装備に関すること.
七 警察教養施設の維持管理その他警察教養に関すること.
八 警察通信施設の維持管理その他警察通信に関すること.
九 犯罪鑑識施設の維持管理その他犯罪鑑識に関すること.
十 犯罪統計に関すること.
十一 前六号に掲げるものの外警察行政における調整に関すること.
十二 皇宮警察に関すること.