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教育・宗教ニ関スル具体的方策

昭和8年7月14日 閣議報告

収載資料:現代史資料 42 みすず書房 1976.11 pp.99-100 当館請求記号:210.7-G29

思想対策ハ大別シテ之ヲ三ト為シ得ベシ
一ハ国民中動モスレバ不穏思想ニ惑ハサレントスル者アルニ鑑ミ日本精神ヲ闡明シ之ヲアラユル社会層ニ普及徹底セシメ以テ国民精神ノ作興ニ努ムル思想善導方策ナリ
二ハ不穏思想ニ関スル人的物的取締ヲ厳ニシテ不穏思想ニ対スル防衛及鎮圧ヲ完クスベキ思想取締方策ナリ
三ハ政治行政経済諸方面ニ於ケル不穏思想醸成ニ与テ力アルべキ諸原因ニ対応シテ之ニ匡救ヲ加フべキ社会改善方策ナリ
此等ハ孰レモ従来屡々唱道企図セラレタル所ナルモ、現下ノ状勢ニ鑑ミ更ニ有効適切ナル方策ヲ講ズルコト緊要ナリ
依テ委員ノ間屡々協議ヲ重ネ、先ヅ以テ思想指導人心啓発ノ根幹タルべキ教育宗教ニ関シ、思想対策ノ見地ニ於テ速ニ改善ノ実行ヲ為スべキ具体案ニ付別紙要綱ヲ得タリ。取リ敢へズ報告ス。其ノ他ノ事項ニ関シテハ、案ノ成ルニ随ヒ、順次之ヲ報告スべシ
(一)高等教育ヲ改善スルコト(大学、高等専門教育ヲ含ム)
(1) 人格教育ニ重キヲオキ教育ノ功利化ヲ防グコト
(2) 大学其ノ他ノ学枚ノ学校長ニ一層適任者ヲ得ルヤウ其ノ選任方法ヲ考究スルコト
(3) 教員ノ任用ハ学力ノミニ著眼セズシテ人格ヲ重視シ又優秀ナル教員ヲシテ永ク其ノ職ニ留マラシムルヤウ考慮スルコト
(4) 高等学枚ノ収容人員ヲ減少スルヤウ考慮スルコト
(二)師範教育及初等教育ヲ改善スルコト
(1) 師範学校ニ於テ生徒ノ識見、徳操ヲ高ムルノ方法ヲ講ズルコト
(2) 師範学校ノ寄宿制度ヲ改善シ訓育ヲ徹底セシムルコト
(3) 師範学校入学志望者ノ詮衡ニ付特ニ本人ノ性行、家庭ノ状況等ヲ調査シ、教育者ニ適スべキ者ヲ採用スルヤウ留意スルコト
(4) 師範学校卒業者ハ卒業直後入営セシメ其ノ在営期間ヲ約一年ニ延長シ訓練ヲ充分ナラシムルガ如キ方法ヲ考慮スルコト
(5) 小学校教員ノ身分ヲ保障スルコト
(イ)小学校教員ノ俸給地方費支弁ヨリ生ズル身分ノ不安定ヲ除去シ其ノ他身分保障ノ方法ニ付考慮スルコト
(ロ)小学校教員ノ養成補充ノ計画ヲ組織的ニ確立スルコト
(6) 小学校教員ニ対スル授業以外ノ仕事ニ付テハ負担過重ヲ避ケテナルべク全力ヲ児童ノ訓育ニ尽サシムルコト
(7) 教員見習制度ノ採用ニ付研究スルコト
(三)徳育ヲ重視スルコト
(1) 修身ノ教授ヲ改善シ且各学科目ノ教授ニ当リテ一層徳育ニ留意スルコト
(2) 国史教育ヲ重視シ単ナル史実ノ教授ニ止マラズ、日本精神闡明ノ為ニ一層努力セシムルコト
(3) 教員ノ徳操ヲ重視スルコト
(4) 教員ニシテ不穏思想ヲ抱懐スル者ハ徹底的ニ排除スルコト
(5) 一学級ノ収容人員ヲ減少シ徳育ノ徹底ヲ期スルコト
(6) 各学科目ニ於ケル欧米直訳的教育ノ弊ヲ改ムルコト
(7) 語学偏重ノ弊ヲ改ムルコト
(8) 教科書ノ内容ガ抜萃ニ堕シ一貫セル精神ヲ欠クノ弊ヲ改ムルコト
(9) 校外ニ於テモ学生生徒ノ徳性ノ涵養ニ留意スルコト
(10) 学生生徒相互間ニ於ケル自発的訓練ヲ為サシムルヤウ奨励スルコト
(四) 私立学校ニ対スル行政監督ヲ強化スルコト
(1) 設立認可ニ際シ充分調査ヲ遂ゲ且設立後ニ於ケル監督ヲ一層厳重ニスルコト
(2) 校長ノ職務管掌ヲ為シ得ルヤウ考慮スルコト
(3) 寄附金募集其ノ他之ニ類似ノ行為ヲ厳重ニ取締ルコト
(4) 思想上注意スベキ教員ヲ採用セシメザルコト
(五)視学制度ヲ改善スルコト
(1) 視学機関ヲ拡充シ学校教育ノ指導及監督ヲ徹底セシムルコト
(2) 視学ノ地位ヲ向上セシムルコト
(六)社会教育ヲ振興スルコト
(1) 青年訓練、実業補習教育ヲ義務化シ、重点ヲ日本精神ノ訓練、身体ノ鍛錬ニオクコト
(2) 日本精神発揚ニ適当ナル映画ノ製作及上映ヲ奨励スルコト
(3) 社会教育機関ヲ適当ニ指導シ一層活動セシムルコト
(七)教育ヲ実際化スルコト
(1) 実業教育ニ於テ理論ニ偏スル従来ノ弊ヲ矯正シ精神的鍛錬ヲ主眼トスル実習ニ力ヲ注グコト
(2) 初等教育及中等教育ニ於ケル教授科目ノ内容及教授方法ヲ改正シ、直接実際社会ニ適応セシムルモノトスルコト
(八)資力乏シク素質ノ優秀ナル子弟ニ対シ教育ヲ受クルノ機会ヲ得シムルコト
(1) 給費生又ハ貸費生ノ制度ヲ拡充スルコト
(2) 夜間其ノ他補習的教育施設ヲ整備シ其ノ利用ヲ奨励スルコト
(3) 博物館、図書館ニ於テ学習ノ指導ニ任ゼシムルコト
(4) 町村小学校ニ簡易図書館ヲ附設セシメ学習ノ便ヲ与フルコト
(九)国家有用ノ材ニ対シテハ其ノ経歴、地位如何ニ関セズ特ニ保護ヲ加ヘテ助成スルコト
(十)宗教ヲ振作シ宗教家ノ覚醒ヲ促シ且其ノ活動ヲ積極的ナラシムルコト