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昭和30年度予算編成大綱

昭和30年1月18日 閣議決定

収載資料:国の予算 昭和30年度 財政調査会編 同友書房 1955 pp.673-675 当館請求記号:344.1-Z11k

わが国の自主独立を完遂し、経済の復興と繁栄を達成するためには、すみやかにわが国経済の自立発展を期し、国民生活の安定向上を図ることが緊要である。その実現を図るため、拡大均衡を目標とする長期かつ総合的な経済計画を樹立するものとする。
昭和30年度予算の編成に際しては、その計画に沿いわが国の経済基盤を強化充実することを主眼とし、健全財政、健全金融の政策を堅持し、通貨価値の安定、物価の引下げ、資本の蓄積を推進しつつ、住宅建設の拡充、失業対策の強化等、民生の安定を図るとともに、企業の合理化を促進し、正常貿易の伸展を期し、他面、大いに国費を節して国民負担を軽減することを基本方針として、下記により処理する。

第1 財政収支の均衡
国及び地方の財政において、その収支の均衡を厳に確保する。
これがため
(1) 一般会計予算の総枠は1兆円以内とし、その範囲内において、重点的に政府の重要施策を推進する。
(2) 財政投融資資金については、前年度程度を確保し、その重点的効率的使用を図る。
余剰農産物見返円資金等の活用については、別途検討する。
(3) 財源の調達は、租税等通常の収入によつて賄うこととし、新たな公債の発行は行わない。
(4) 地方財政については、その規模を抑制し、極力健全化を推進する。
第2 税制の政正
安定した経済基盤の上に、自立復興の態勢を確立するため、まず租税負担の公平を図り、資本の蓄積を強化促進する。
これがため
(1) 勤労者、中小企業者、農民等の低額所得者を中心として、直接税を軽減する。
(2) 臨時に、預貯金利子、配当等の源泉課税の減免を図る。
(3) これらに伴う不足財源は、消費税その他間接税の増収等をもつて補てんする。
等税負担の調整を行う。
第3 重要施策
(1) 住宅対策の拡充
現下における著しい住宅難をすみやかに解消するため、住宅建設の総合計画を樹立するとともに、この計画に基き、所要の財政措置を重点的に強化する。
これがため
(イ) 公営住宅の予算を増額するほか、金融面においても、住宅金融公庫の資金を充実するとともに、厚生年金資金の勤労者厚生住宅への還元融資を確保する等の資金的措置を講ずる。
(ロ) 特に集団庶民住宅の建設、不燃化の促進、宅地対策の拡充に重点を置く。
(ハ) 公営住宅の建設および運営の方式を整備し、その合理化を推進する。
(ニ) 民間における住宅建設の意欲を促進するため、税制上の特別償却制度の拡張等を行う。
(注、他面、不要不急の建物の新築については、極力これを抑制する。)
(2) 社会保障の強化
民生の安定を図るため、長期的には総合的な経済自立計画の遂行によつて漸次就業機会の拡大を図り、完全雇用を実現することを目途とし、当面は、財政健全化政策を円滑に推進する一方、やむをえず生ずる失業者については、極力生産に寄与するような方途をもつて、その吸収を図るとともに、生活困窮者の救済に遺憾なきを期する。
これがため
(イ) 生活保護その他社会福祉および社会保険制度の運営の充実適正化および結核その他の疾病対策の重点的充実を図る。
(ロ) 失業対策事業費を充実し、失業者多発地については、重点的に経費を配分し、大幅に失業者を吸収する。
(ハ) 特に事業の経済的効果を発揚し、労働能率の高い失業者の就労を促進するため、道路その他の緊急就労対策事業等の拡充に重点を置く。
(ニ) 一般の公共事業その他国および地方公共団体の行う事業、財政投融資対象事業等、公費の負担にかかる事業についても、極力失業者の吸収に適するごとくその施行地域、工事種目等について、適切な配慮を加える。
(ホ) 大学卒業者等知識階級の就職対策を促進する。
(3) 中小企業対策の充実
わが国経済において中小企業の占める役割の重要性にかんがみ、かつは、財政健全化政策の円滑な推進を図るため、中小企業対策を重点的に充実する。
これがため
(イ) 中小企業の組織化、系列化を図る。
(ロ) 国民金融公庫、中小企業金融公庫等、中小企業金融に対する資金を確保し、その運営を改善し、能率化を期する。
(ハ) 中小企業信用保証制度を充実する。
(ニ) 中小企業の税および金利負担の軽減を図る。
(4) 貿易の振興
国際収支の均衡を堅特し、わが国経済の自立態勢を確立するため、特需の減少に対拠し、輸入の適正化を期するとともに、正常な輸出の振興を図る。
これがため
(イ) 国際価格に対する国内価格の割高が輸出の障害となつている現況にかんがみ、重要基礎産業および輸出産業の再編、合理化を促進するとともに、生産性を向上し、生産コストの引下げを図る。
(ロ) 輸出入銀行に対する財政資金を大幅に増額する等、輸出に対する金融措置を強化する。
(ハ) 経済外交の刷新を図り、海外市場の維持拡大、貿易商杜の整備強化、業界の不当競争の排除等輸出取引秩序の確立を促進する。
(ニ) 輸出免税の拡大等、税制上の配慮を行う。
(ホ) 資源の開発、国産品の使用奨励を強化する等により、輸入の適正化を図る。
(ヘ) 輸入特殊物資の超過利潤の吸収および活用を図る。
(5) 農林漁業の振興および食糧対策の刷新、農林漁業施策の刷新強化を図るため
(イ) 総合的な食糧自給態勢の強化を目途として、食糧増産を確保し、事業実施の重点化、効率化により、畜産水産の振興、食生活の改善と相まつて、食糧輸入の負担軽減に努める。
(ロ) 農林水産物の輸出の振興、流通の改善ならびに肥料飼料の価格の低簾化等に努め、農家経営の安定を期する。
(ハ) 現下の内外食糧事情ならびに今後の趨勢に即応し、食糧管理制度につき、供出割当その他について所要の改正を加える。
(6) 公共事業の重点的強化
治山治水等公共事業の効率を向上するため
(イ) 公共事業の総花的傾向を排除し、重要既着工工事の早期完成を図る等経費の重点的、効率的使用を図る。
(ロ) 特に道路の整備に重点を置き、この経費の拡充を行い、あわせて雇用機会の増大による失業者の積極的吸収を図る。
(ハ) 事業の実施に当つては、国土の総合的開発効果を確保することとし、特に北海道の開発を考慮する。
(7) 文教および科学技術の刷新振興
文教および科学技術振興の重要性にかんがみ
(イ) 国情に即して文教の刷新を促進し、文教施設の整備、育英奨学制度の充実等を図る。
(ロ) 科学技術の振興については、わが国産業の発展に寄与するよう、基礎研究ならびにその応用化、工業化に重点を置き、経費の集約的効率化を図る。
(8) 人口対策の推進
人口問題の重要性にかんがみ、すみやかに適切な人口対策を確立するとともに、その一助として、海外移民の振興を図る。
(9) 自主防衛体制の整備
わが国の国力に相応した自主防衛体制を整えることを目途とし、財政経済の規模を勘案しつつ、自衛隊を漸次充実することを基本方針とする。昭和30年度における自衛隊の充実については、防衛庁経費と防衛分担金とを含めた防衛経費の総体を前年度の枠内にとどめることとし、これに伴い防衛分担金の減額を求める。
(10) 行政の適正合理化
行政の適正合理化を推進するため
(イ) 不要不急の事務を整理する等行政の簡素合理化を図るとともに、やむを得ない経費の増加は極力定員の配置転換等により処理する。
(ロ) 各省各庁の行政事務および会計経理の運営の適正合理化を期するため、会計検査院、行政管理庁、大蔵省および自省庁の検査、監査等の効率的活用を期する。
(ハ) 公務員およびその給与に関する制度について、すみやかにその適正合理化を図る。
第4 経費の節減
財政健全化の方針を貫き、かつは、国民生活の刷新改善に資するため、極力経費の節減を行い、財政負担の軽減を図る。
これがため
(1) 経費については、その具体的効果、今後の必要性等を充分考査し、根本的な再検討を加え,徹底的にその重点化、効率化を図る。
(2) 補助金、交付金、委託費等について、その実行状況、効果および今後の必要性等について徹底的に検討を加え、極力その整理を図るとともに、その執行の適正化について、所要の法的措置を講ずる。特に地方負担を伴う補助金等は、地方財政窮迫の現状にかんがみ、地方負担の軽減を眼目として整理を強化する。
(3) 物件費、施設費等について、前年来の物価の値下り動向等を充分勘案し、さらに積極的に調弁価格を引き下げることに努力し、極力その節約を図る。
第5 地方財政の刷新改善
地方財政の現状にかんがみ、健全化を促進するため、その刷新改善を図る。
これがため
(1) 地方行政機構、行政事務の抜本的簡素合理化を推進する。
(2) 地方団体の自主的努力による経費の節減および収入の確保を期する。
(3) 町村の合併を促進する。
(4) 国の補助金等の整理合理化によつて地方負担を軽減する。
(5) 地方道路税の創設等、地方自主財源の充実を図る。
(6) 地方財政再建整備の促進のため適切な法的措置を講ずる。