昭和32年度予算編成方針
閣議決定年
昭和32年1月8日 閣議決定
収載資料:資料戦後二十年史 2 経済 有沢広巳・稲葉修三編 日本評論社 1966 p.281 当館請求記号:210.76-Si569
わが国経済は戦後10年を経て漸く自立体制の基盤を整え、過去2年にわたり生産、貿易、雇用など各分野においてめざましい成長を遂げてきたが、この際さらに完全雇用の達成と生活水準の向上をめざして、あくまでもインフレを防除しつつ、産業活動、国民生活の全般にわたって均衡のとれた発展を推進する必要がある。これがため昭和32年度予算は左記により編成する。
記
1.基本方針
(1)最近における経済の実情にかんがみ一般会計の増加収入の一部をもってまず国民負担の大幅な軽減合理化を行い、他面、収支の均衡を堅持しつつ重点施策を積極的に推進する。
なお経済の正常化に即応して経費の妥当性を再検討し、また行政能率の向上により職員増加を抑制する等経費の効率化をはかる。
(2)財政投融資については原資の増加に伴って重点的に拡充をはかるものとし、その際、財政と金融とを一体的弾力的に運用する態勢の強化につとめる。
なお昭和31年度における一般会計の自然増収の一部を産業投資特別会計において受け入れ、原資の補完に充当するほか、これを今後の経済情勢に応じて計画的に運用する道をひらく。
2.国民負担の軽減合理化
国民生活の安定と負担の公平を目途として、低額所得者の負担の軽減に留意しつつ、税率の調整に重点をおいて所得税の大幅な軽減を行う反面、租税上の各種特別措置を整理合理化する等税制全般にわたる改正を実施する。なお、地方税についても、税負担の調整につとめる。
3.産業基盤の整備
産業発展のあい路を打開するため、産業の基盤および立地条件の早急な整備をはかることとし、電力資源の開発を中心とする産業資金の供給を増加し、幹線道路、国有鉄道、港湾(漁港を含む)その他の交通施設の飛躍的増強をはかり、あわせて通信網を整備する。これに関連し揮発油等に対する課税率の引上げと国鉄運賃の改訂を実施する。
4.社会保障の充実
国民生活の安定と向上をはかるため、医療の国民皆保険の早期達成を目途として、国民健康保険の普及を推進し、生活保護、失業対策、疾病その他の社会福祉対策の内容を充実する。なお老齢年金および母子年金の創設を準備する。
5.住宅及び環境衛生対策の推進
住宅難を早期に解消するため、政府の施策による住宅建設を一段と増強することとし、住宅金融公庫及び日本住宅公団の資金を大幅に拡充する。上下水道その他環境衛生施設の整備をはかる。
6.中小企業の育成強化
中小企業経営の安定に資するため税負担を軽減し、国民金融公庫等の資金の充実と中小企業金融の金利の引下げの促進をはかるとともに、中小企業の組織の強化と設備の近代化を進める。
7.経済外交を強化し、貿易の振興、海外投資、技術協力の積極化、海外移住対策の促進をはかるとともに、観光施設の整備につとめる。
8.文教文化の振興をはかり、教育施設の整備と青年婦人の社会教育活動の活発化につとめる。科学技術の振興をはかり特に原子力の平和利用を促進する。
9.治山治水等国土の総合開発、東北、北海道、離島の開発を促進するとともに公共事業の実施については、重要既着工工事の早期完成につとめ、一層経費の重点的効率的使用を期する。
10.新農山漁村振興計画を推進し、農林漁業の経営の安定をはかり、生産基盤の強化につとめる。
11.防衛費については質的増強に重点をおいて防衛力漸増につとめるが、従来の予算消化の実情にかんがみ、予算の計上額は必要最少限度にとどめる。
12.公務員の給与に関する人事院勧告の趣旨に沿い、現行俸給制度の不合理の是正その他の措置を講ずる。
13.減税の実施及び社会保障の充実を機として、内地米配給価格の引上げを行うとともに、国内産麦の価格体系を調整し、食糧管理を合理化する。
14.地方財政の健全化
地方財政については、その再建促進の基本方向に即し、地方債の重圧を緩和する等その健全合理化を推進する。
なお、住民福祉を増進するため、公営事業の実施及び新市町村建設の助成を強化する。
(補注1)昭和32年度予算編成方針の一部が32年1月26日の閣議で次のように修正された。
「13」を次のように改める。
13.食糧管理特別会計については特別調査会を政府に設置し、食糧管理制度の合理化について全面的に検討し、米価その他食糧管理特別会計の基本問題を処理する。
(補注2)右の一部修正に伴い、次の方針によることが32年1月26日の閣議において了解された。
(1)減税は変更しないこと。
(2)健全財政の方針は崩さないこと。
(3)昭和32年以降食糧管理特別会計健全化の方針を確立すること。