満洲重工業確立要綱

昭和12年10月22日 閣議決定

収載資料:現代史資料 8 みすず書房 1964.7 pp.771-772 当館請求記号:210.7-G29

方針
現下内外の情勢に鑑み日満一体となり重工業を中心とし急速に生産力を拡充するの要緊切なるを以て概ね左記要領に依り満洲生産開発計画遂行の確保促進を期し満洲に於ける重工業の総合的速急確立を図る為企業形態を新にし内外有力産業資本の進出を誘致し国家統制の下に経営技術の能力を最も有効に発揮せしめ以て日満両国将来の経済発展に資せんとす
要領
一、日満両国政府援助の下に満洲国に於ける重工業の確立発展を図る為新に重工業の総合的経営を目的とする強力なる国策的会社を設立するものとす
二、本会社は満洲国政府及民間各半額出資とす
前項民間とは差当り日産(現在資本金二億二千五百万株主数約五万人)を予定す
三、本会社は概ね左記事業に対し支配的に投資し之が経営の指導に当るものとす
(イ) 鉄鋼業
(ロ) 軽金属工業
(ハ) 重工業(自動車、飛行機の製造工業)
(ニ) 石炭鉱業
附箋 石炭鉱業には差当り満鉄撫順炭鉱を含まず
右の外本会社は産金、亜鉛、鉛及銅等の鉱業其の他の事業に対しても附帯的に投資し経営することを得るものとす
四、満洲国は前記(イ)乃至(ロ)の各事業を営む既存会社をして順次本会社の支配下に移らしむると共に今後前記(ハ)乃至(ニ)の各事業を営む新会社は本会社の支配下に設立せしむるものとす。満鉄の前記関係諸事業に対する出資に付ても同社と協定の上亦右に準じ処置せしむるものとす
五、前記諸事業の開発経営に付ては外国資本の参加を認め外国の技術設備と共に努めて外資の導入を図るものとす、右は本案の要件として特に重きを置くものとす
六、前号の外国資本は各個の事業会社に付ては其の議決権が半数に達せざるの範囲に於て、本会社に付ては議決権なき株式に限り株式資本として参加せしむるものとす
社債其の他貸付金の形式に依るものは制限なきものとす。
七、日満一般資本に付ては各個の事業会社に対しても適宜参加せしむるものとす
八、日満両国政府は本会社の日産よりの引継資産の活用及今後の所要事業資金の調達に付極力便宜援助を与ふるものとす
九、満洲国政府は日満民間及外国側の本会社及各事業会社への出資に対し適当なる優遇方法を講じ又日本政府も当該株式等の国内市場に於ける流通をも容易ならしむる等資本をして安じて対満進出を為さしむる如くするものとす
一〇、鉄鋼業に対しては日鉄は本会社と相互的に資本参加の途を講ずるものとす
一一、本会社の経営は日本民間の有力なる適任者に一任するものとす
附箋 日本民間有力なる適任者は現日産社長鮎川義介氏を予定す
一二、本会社及各事業会社に対し満洲国政府は適当なる監督方法を講ずるものとし之に関し満洲国政府は日本政府と緊密なる連繋を保持するものとす
一三、日本政府は前記諸事業の生産品にして日本領土内に輸入せらるるものに関しては関税其の他の関係に於て事実上之を外国品扱ひとせざるものとす