錦絵と写真でめぐる日本の名所

江戸名所記案内

江戸では名所、名店、名物を案内する書物、今で言うガイドブックが売られていました。江戸を訪れた人々のみならず、江戸の人々もそれらを片手に名所巡りを楽しみました。また、江戸土産としても人気の商品となります。国立国会図書館にも所蔵が多数あります。当時の江戸の名所の賑わいをお楽しみください。

ガイドブック

江戸名所記 7巻 / [浅井了意][著] : 河野道清, 寛文2(1662)刊【京-21】

寛文2(1662)年京都の河野道清刊。江戸の絵入り名所案内で最も古いもの。筆者は記されていないが、浅井了意と伝わる。自序には、作者が春の陽気に誘われて出かけたところ、友人と出会い、2人で江戸の名所を巡って話の種にしようと、茶屋で名所巡りの順番を決めたとある。7巻で名所81ヵ所を取り上げており、名所ごとに絵を付し、説明の最後は和歌で結んでいる。名所のほとんどは寺社仏閣であるが、日本橋の賑わい、歌舞伎や浄瑠璃などについても記されている。

江戸雀 12巻 / 近行遠通 撰 ; 菱川師宣 画 江戸 : 鶴屋喜右衛門, 延宝5(1677)刊【京-22】

延宝5(1677)年に江戸で開版された最初の絵入り地誌。自序によれば、地方から著者を訪ねてきた知り合いに請われて、武家屋敷・寺社・名所旧跡などの案内書を記したとある。絵師菱川師宣による挿絵35図は貴重な風俗資料として珍重されている。

浅草観音堂

古郷帰の江戸咄 6巻 : 鎰屋平石衛門[ほか2名], 貞享4 (1687) 8冊【本別19-5】

貞享4 (1687)年刊。本文も挿絵も『江戸名所記』、『江戸雀』に類似している。自序には、長年江戸に暮らした筆者が、故郷へ帰る前に土産話の種にでもと名所巡りを思い立ったと書かれている。

紫の一本 / 戸田茂睡 写, 正徳4(1714) 2冊【寄別5-2-3-1】

上下2巻。天和3(1683)頃の成立。2人の人物が江戸巡りをする様子に脚色して、名勝古跡や当時の風俗を描いている。地名を坂、橋、谷のように分類して記すのは本書が始まりと言われる。

江戸砂子 6巻 / 菊岡沾涼 著 ; 丹治庶智 補 : 須原屋伊八[ほか1名], 明和9(1772)刊【840-1】

江戸の地誌『江戸砂子温故名跡志』(享保17(1732)刊【291.36-Ki147e】)の再校本。別名『再校江戸砂子温故名蹟誌』『再校江府名跡志』。初刊本の字句の誤りを訂正し、享保17(1732)年以後の地名・人名の変移を記している。増補した箇所にはその行に「補」の字を付して、初刊本との違いを表している。武蔵国あらまし、江戸城の外堀内の地域から始まり、さらに江戸城を中心に方角別に分けて、町名・門・橋をはじめ、神社仏閣の起源、名所・古跡の来歴については古書を挙げて考証している。初刊本とあわせて、江戸地誌として最も流布したとされる。

東叡山

府内備考 / 三島政行 ; 神谷信順 編 写 45冊【寅-13】

府内備考 続編 52冊 / 三島政行 ; 神谷信順 編 写 【239-1】
唯一の江戸幕府官撰の江戸地誌。他タイトル『御府内備考』。徳川幕府が『御府内風土記』を編集するための参考資料としてまとめさせ、文政9(1826)年から4年をかけて、正続2編に分けて編纂したもの。正編145巻は江戸城、市街、旧跡の記事など。続編147巻は『御府内寺社備考』ともいい、寺社の縁起、由緒を記述している。『御府内風土記』は明治5(1872)年の皇居の火災で焼失してしまったが、『府内備考』は難を免れた。

江戸繁昌記 / 寺門静軒 刊, 天保3-7(1832-36) 6冊 (合3冊)【840-13】

漢文で書かれた江戸の地誌。天保3~7(1832~36)年にかけて出版された。著者寺門静軒(1796~1868)の鋭い視点から、知識人の好評を博した。しかし、武士・僧侶・儒者の生態をきびしく諷刺していたため、天保の改革(1841~43)の際に風俗を乱す書物として、版木は取り上げの上、焼き捨てられた。

江戸名所図会 7巻 / 松濤軒斎藤長秋 著 ; 長谷川雪旦 画 東都 : 須原屋茂兵衛[ほか], 天保5-7(1834-1836) 20冊【839-57】

天保5~7(1834~1836)年に刊行。江戸及びその近郊の絵入り名所地誌。江戸地誌の集大成と評されている。編者は斎藤幸雄ゆきお(長秋)・幸孝ゆきたか莞斎かんさい)・幸成ゆきなり月岑げっしん)の父子三代。7巻20冊。画は長谷川雪旦せったん。神社・仏閣、名所、古跡の沿革と現状を実地検証によって記述し、その史料的価値は高い。特に風俗、行事、景観を伝える雪旦の画は、実地の写生であって精緻を極めた描写が多く、当時の景観や風俗を知るうえでの好史料とされている。国立国会図書館では幸孝の実地調査記録である『郊遊漫録』【134-270】の写本も所蔵している。

御殿山看花

名所絵を楽しむ本

絵本江戸みやげ 2編6巻 / 西村重長 ; 鈴木春信 画 平安 : 菊屋安兵衛【わ-54】

初版は宝暦3(1753)年、西村重長によって描かれた。西村没後、明和5(1768)年に鈴木春信画による続編が出版され、約100年の長期に渡って流行した江戸の名所を紹介する絵本。

深川八幡

画本東都遊 3巻 / 浅草庵 作 ; 葛飾北斎 画 : 享和2(1802)序【か-46】

寛政11(1799)年刊行の『狂歌東遊 』【か-19】は狂歌に江戸名所の挿絵がついたものだったが、本書は狂歌を除き、江戸名所の挿絵を彩色摺としたもの。絵は葛飾北斎による。

飛鳥山

江戸名所図会 / 十返舎一九 作・画 : 文化10 [1813] 序【京-254】

狂歌絵本。江戸の名所の景色や風俗を詠んだ狂歌五十一首に十返舎一九の序文と画が添えられている。十返舎一九は江戸時代後期の戯作者。代表作に滑稽本『東海道中膝栗毛』がある。

日暮里

絵本江戸土産 10編 / 松亭金水 解説 ; 一立斎広重 ; 広重二世 画 東都 : 菊屋三郎[ほか]【120-84】

嘉永3(1850)年~慶応3(1867)年にかけて出版された。1~7編は初代広重が、初代広重没後に8~10編を2代広重が手がけたとされる。売れ行きがよく何度も摺を重ねている。序文には、『絵本江戸みやげ』(↑)の版木が焼失したことを惜しんで、自ら現在の様子を描くことにしたと記されている。

両国橋

狂歌江都名所図会 16編 / 天明老人内匠 編 ; 広重 画, 安政3(1856)序【200-140】

『江戸名所図会 』(長秋著)の体裁にならって、江戸の名所旧跡、神社仏閣、盛り場や有名な店舗などを狂歌で記述し、配列したもの。1~14編を初代広重が、5・6編の一部と15・16巻を2代広重が描いている。

懸樋・水道橋

ショッピング・グルメ

江戸買物独案内 2巻付1巻 / 中川五郎左衛門 編 東都 : 山城屋佐兵衛[ほか], 文政7(1824)刊【123-229】

上・下・飲食の部の3冊からなり、約2,600店を紹介する。上巻には大田南畝の序文あり。品物の名前をいろは順にならべ、所在地と屋号を掲載している。

ろうそく問屋

江戸名物酒飯手引草 / 嘉永元(1847)【に-65】
会席料理や、どじょう、寿司、蕎麦屋など飲食店の名簿を兼ねた広告本。『江戸買物独案内』の形式を真似ている。

山谷・八尾善、小梅・小倉庵などの有名料亭の名が載る

花暦・歳時記

みやびのしをり / きゝすのや則房 江戸 : 北島順四郎, 天保5(1834) 1帖【特1-3144】

江戸時代後期には江戸の花鳥風月の案内書が刊行されたが、本資料もその一つ。花暦のなかでおそらく項目がもっとも多い花鳥風月150項目を収めた江戸名所一覧。折畳式小冊子で畳むと現在の一筆箋ほどの大きさとなり、持ち歩きやすい。

江戸遊覧花暦 4巻 / 岡山鳥[他] 江戸 : 須原屋伊八[ほか1名], 天保8(1837)【特1-1952】

文政10(1827)年刊。『江戸名所花暦』とも呼ばれる。春は鴬・梅・桜など、夏は藤・蛍などの季節の景物の名を43項目あげて、項目ごとに江戸及び近郊の名所を紹介している。名所の所在地や、詳細、由来などを付した名所案内記。

亀戸天満宮

東都歳事記 4巻付録1巻 / 斎藤幸成 編 ; 長谷川雪旦 画 ; 松斎雪堤 補画 江戸 : 須原屋伊八[ほか], 天保9(1838)刊【121-85】

春夏秋冬にわけて、江戸の年中行事と景物を詳細に記している。

歳暮交加図 「江戸名所図会二十冊出来」の看板が見える。

引用・参考文献

コラム一覧

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