国立教育政策研究所教育図書館

2021年3月から新しく連携を開始させていただきました。
国立教育政策研究所教育図書館(以下、教育図書館)の鈴木様と、同じく教育図書館で研究をされている江草様にお話を伺いました。
(2021年10月19日インタビュー実施)

基本情報(2022年4月現在)
アーカイブ名(1)教育図書館貴重資料デジタルコレクション
https://www.nier.go.jp/library/rarebooks/外部サイト
(2)教育図書館近代教科書デジタルアーカイブ
https://www.nier.go.jp/library/textbooks/外部サイト
(3)教育図書館往来物デジタルアーカイブ
https://www.nier.go.jp/library/darchives/orai.html外部サイト
(4)教育図書館戦後教育資料デジタルアーカイブ
https://www.nier.go.jp/library/sengo外部サイト
アーカイブ概要(1)国立教育政策研究所教育図書館で所蔵する教育制度に関する資料や教授法、教育双六等の貴重資料をカラー画像で提供。
(2)国立教育政策研究所教育図書館が所蔵する戦前教科書の全文閲覧が可能。明治初期から順次公開している。
(3)国立教育政策研究所教育図書館が所蔵する往来物(江戸時代の学習書)約100点のデジタルアーカイブ。
(4)国立教育政策研究所教育図書館が所蔵する戦後教育資料の全文閲覧が可能。
メタデータ件数(1)168件
(2)約4万2千件
(3)107件
(4)約2,500件
連携方式CSVファイル投入
連携調整期間連携打診:2019年7月
リリース:2021年3月

デジタルアーカイブの特徴とアーカイブ構築について

NDL:今回連携した貴館のデジタルアーカイブについてご紹介をお願いします。

鈴木:教育図書館にはいくつかデータベースがあり、今回このうち4つをNDLサーチと連携しました。

「貴重資料デジタルコレクション」は、教育図書館が所蔵する貴重資料をカラー画像で公開しています。デジタル画像自体は10年以上前に作成していたのですが、2018年の明治150年記念事業を機に公開しようと構築しました。データ件数が少ないため、図書館システム等は使用せず、Webサイトとして構築しています。キーワード検索はできませんが、きれいに見せることを重視しました。

「近代教科書デジタルアーカイブ」では、教育図書館所蔵資料の目玉とも言える、戦前期の教科書を順次公開しています。こちらも、マイクロフィルム時代から資料を撮影してきた経緯があり、画像自体は蓄積されていたものを明治150周年記念事業の一環として公開しました。

「往来物デジタルアーカイブ」では、江戸時代の寺子屋等で使用された学習書である往来物を公開しています。画像は近代教科書と同様の経緯で作成していましたが、江戸時代の資料には著作権調査も不要であるため、近代教科書デジタルアーカイブよりも前から公開していました。

「戦後教育資料デジタルアーカイブ」は、戦後の文部省で教育改革のために使用された行政資料を公開しています。近代教科書の次に人気のある資料群です。画像は、科研費によって作成され、主に所内で利用されていました。近代教科書デジタルアーカイブの公開を経て、資料の公開のノウハウが蓄積されてきたこともあり、所内で承認を得て公開に至りました。

江草:どのデジタルアーカイブも、ゼロから構築したものではなく、作成済の画像を最近公開したものです。戦後教育資料でいうと、科研費による研究プロジェクトで収集された資料が教育図書館に所蔵され、その後、別のタイミングでPDF化と最低限の書誌作成が行われたという経緯です。

鈴木:資料の現物保存のために予算に余裕があったときにPDF化する、という作業を積み重ねていました。

デジタルアーカイブ構築の体制

NDL:既にお持ちの画像を公開するために、これらのデジタルアーカイブを構築されたのですね。構築準備時期が新型コロナウィルス感染症の流行時期とも重なっていますが、調整に影響しましたか?

鈴木:何もない時期に調整しても同じ結果だったかもしれませんが、来館できない今こそデジタルアーカイブを公開しましょう、と言うことができたので進めやすかったです。

NDL:デジタルアーカイブの構築は何かのプロジェクトチームのような体制によって進められたのではなく、コレクション単位で準備ができたものから公開されていったのでしょうか?

鈴木:そうです。明治150年記念事業は大きなきっかけになりましたが、人員や大きな予算がついたわけではないため、基本的には図書館非常勤職員と私と江草が作業して、一部は業者に委託しました。

江草:ライセンスの調整等の手続きだけではなく、システム上で画像を公開するために必要な作業も行いました。

近代教科書では、機械可読ではない書誌データや、紙の目録カードに記載された書誌データしかありませんでした。データ件数は5万件を超えていたため、データベース公開助成のための科研費で業務委託を行い、NACSIS-CATに資料を登録してもらうのに5年ほどかかっています。

貴重資料については、将来のデータ移行も容易になるようにHTMLで公開することにしました。きれいに見せるためのデザインは委託していますが、内製した部分も多いです。

NDL:それを伺うと、業者に委託する作業を切り分けるといったプロジェクト管理の面でも大変そうだなと思いました。普通の図書館で業者との関係をそのようにコントロールするのは難しいかもしれませんね。

鈴木:ほとんどのデータベースは江草の科研費が使われています。科研費の取得の際に、業務委託できる作業を整理して申請するようにしています。ただ、業者にお願いする作業も一通り自分でできるようにしています。

デジタルアーカイブの運営

NDL:デジタルアーカイブの日々の運用や、コンテンツの追加についても構築時と同じ体制で維持されていますか?

鈴木:アーカイブ構築当初は、書誌の登録作業、次に画像データと書誌のマッチングを行っていましたが、現在はとにかく著作権調査をしています。

近代教科書デジタルアーカイブの公開作業を一通り経験したあたりで、メタデータ整備から公開までのノウハウを蓄積できたと感じています。作業者が数年で変わっても進められるよう業務を整備できました。

メタデータのフォーマット

NDL:コンテンツのメタデータを作成される際、フォーマット等はどのように決定されたのですか?

鈴木:NACSIS-CATへの登録であったため、フォーマットは初めから決まっていました。

江草:デジタルアーカイブ特有のメタデータ項目はあまりなく、NACSIS-CATと同じデータ項目でほとんど問題ありませんでした。蓄積したデータが何かの拍子に使えなくなってしまわないように、広く流通しているデータ形式を選んでいます。図書館のOPACの資料としてメタデータを整備しつつ、それをデジタルアーカイブでも流用できるようにしました。

NACSIS-CATの形式で困ったことは、書誌の単位が大きかったことですね。多巻ものの資料では出版年を範囲として記録することになりますが、後になってから、出版年が正確じゃないのはよくないと思い直してデータを追加することになりました。

NDL:NACSIS-CATの書誌をデジタルアーカイブのメタデータ単位にどのように合わせられたのですか?

江草:書誌を資料単位で分割し、巻号情報を入れてデジタルアーカイブの書誌にしました。巻号と資料IDと請求記号の情報は、NACSIS-CATの書誌にあったので、あとは資料単位の出版年を追加してデジタルアーカイブの書誌を完成させました。デジタルアーカイブ側では、とにかく、資料IDを一番小さな単位にしました。デジタルアーカイブ側の書誌には、OPACの書誌へのリンクもあり、元のデータを参照することができます。

NDL:OPACの蔵書目録とデジタルアーカイブでメタデータを共有されているのですか?

鈴木:それぞれシステムが分かれており、データが自動で同期するわけではないのですが、基本的には同じデータを使っています。近代教科書デジタルアーカイブの画像付き書誌と、OPAC上の図書館書誌に、相互にリンクを貼っています。データに修正がある場合は、OPACとデジタルアーカイブの両方を手作業で修正しています。

江草:1箇所でメタデータを更新したら、他システムのメタデータにも反映できるようにしたかったのですが、システム上の制約があり、できませんでした。そこで、それぞれのメタデータにIDを持たせて相互参照できるようにしました。手作業の更新であってもちゃんと接続はできるようにメタデータを整備しました。

NDL:それぞれのメタデータに識別子が記載されているだけでも素晴らしいことだと思います。

連携にかかる機関内での調整

NDL:連携にあたっては貴館の組織内でも調整していただいたと思いますが、そのあたりはどうでしたか?

鈴木:NDLサーチの規模やアクセス数等の資料を頂いていたため、規模の大きさ等を説明しやすかったです。国立国会図書館という名前だけで十分なところもあったと思いますが、好意的な反応でした。

NDL:実は、連携先機関へのご説明に、アクセス数の統計を用いたのはあのときが初めてでした(NDLサーチの2018年度の1か月平均のページビュー数は約1250万件、検索回数は1320万件)。統計をお伝えする際には、大きな数を提示することで、NDLサーチの検索結果で、自館のデータベースが埋もれてしまうことを心配されるのではという懸念もあったのですがどうでしたか?

鈴木:その心配はしませんでしたね。大きな数値を見せてもらうことで、当館のデータベースにアクセスしてもらえる可能性が増えることを納得していただくことができました。

NDL:いろいろな連携機関の方のお話を聞くと、データを使ってもらわないと意味がないという考え方と、自機関のデータは自機関でコントロールしたいという考え方があるように思います。

鈴木:コントロールしたいという気持ちはありませんが、公開したり使ってもらったりするにしても、それを日業業務の中で上手く按分していくことも重視しています。どの程度の労力でデータが公開できるかというのは1つのポイントだと思います。

ただ、振り返ってみると、NDLサーチやジャパンサーチとの連携は、労力はかかりましたが大きな意義があったと感じています。

江草:これからの教育図書館のあり方という観点に立ったときには、所蔵する資料やデータをどんどん使ってもらっていくことが大事なのかなと考えています。

メタデータとコンテンツのライセンス設定

NDL:メタデータやコンテンツのライセンス設定で難しかった部分はありますか?

江草:メタデータは自分たちで作成したものですので、ライセンスも自分たちで決定し連携の文書と合わせてスムーズに手続きできました。画像(コンテンツ)のライセンスについても、文部科学省のHPの規約外部サイト(政府標準利用規約)に準じて設定しました。元々、著作権保護期間満了の資料中心にオープン化を行っていたので、特別な調整は行っていません。

鈴木:ただ、決定したライセンスをどのように表示するのかについては悩みましたね。最終的に、国立国会図書館デジタルコレクション同様に、著作権保護期間が満了していることを示す記載としました。

NDL:当時はほとんど事例がなく、コンテンツのライセンスについてメタデータ単位で格納していただいたのは、NDLサーチの連携機関の中で貴館が初めてでした。

江草:ジャパンサーチではライセンスのファセットで絞り込み検索を行うことができます。NDLサーチ経由の連携をするとライセンスで検索できなくなるのは残念なので、表示できてよかったです。

NDL:メタデータのライセンスとコンテンツのライセンスの格納先をそれぞれ整備できるまで、ライセンスの情報を扱うことは時期尚早なのではという懸念もありましたが、NDLサーチからデータを渡した先のシステムの検索結果に影響が出てしまうことは避けなくてはいけません。まずはデータを格納しようというきっかけをいただくことができました。

コンテンツ利用状況の把握

NDL:ライセンスをオープンにしたことで、資料の利活用の事例を掴みづらくなったという機関のお話を聞くこともあります。この点について、貴館はいかがでしょうか?

鈴木:以前は、年間何十回か利用申請を受け、そのたびに決裁を行っていました。ライセンスをオープンにしたことによって、決裁の手間が減りました。その代わりに、システム上でアクセス数、ダウンロード数の統計をとっています。コンテンツが利活用されることが大事だと思いますので、システムで数値が分かればよいと考えています。

江草:NDLサーチとの連携でも、アクセスログがいただけると嬉しいですね。

NDL:それは当館でも課題として認識しています。例えばダッシュボードのようなものを作れば、連携機関の方が、連携の効果を確認できると考えています。

江草:そんなに立派なものでなくてよいので、教育図書館の資料の詳細ページのビュー数について年間レポートを出していただくといいう形でも、情報があればよいと思います。教育図書館のサイトまで遷移したユーザについては、直前のページの情報を教育図書館のシステムで取得できます。

NDL:今まで、NDLサーチから連携先のサイトへの遷移の状況を把握するために、見る・借りる欄から連携先に遷移した件数の統計がとれたらいいなと考えていましたが、詳細ページのビュー件数にも需要があったのですね。詳細ページのビュー件数であれば、すでにNDLサーチ全体では統計をとっている数値ですので、今後検討していきたいと思います。

今後について

NDL:貴館のデジタルアーカイブについて今後のご予定や計画はございますか?

鈴木:所蔵している約6万冊の近代教科書のうち、現在近代教科書デジタルアーカイブで公開できているのは4万冊ほどです。あと画像作成済みの1万冊ほどの公開を行いたいですね。継続して作業を行うことができればあと1、2年ほどで完了する見込みです。

また、現在はコロナ禍に伴い、一般利用者向けの来館サービスを休止している(2021年10月時点。2022年4月15日より来館利用は部分的に再開)ため、デジタル化データの提供が当館サービスの大きな柱になっています。近代教科書以外のデジタル化データも日々蓄積していますし、利用頻度の高い資料群も存在しています。著作権の確認が必要であるものの、公開作業に着手できればと思っています。

江草:私の研究プロジェクトの一環で公開しているデジタルアーカイブ外部サイトがいくつかあります。各都道府県の教育研究所・教育センターで発行されている紀要の、論文記事PDFと書誌や昔の学習指導要領などです。将来的にはNDLサーチと連携できればいいなと思っています。そのためには書誌データの整理が課題です。

NDL:新型コロナウィルス感染症拡大対策のため来館制限がある中でのサービスとして、どのようなことに力を入れられていますか?

鈴木:デジタルアーカイブ等オンラインで資料を公開することに力を注いでいます。またILL(図書館間相互貸借・複写)も増えていますね。

江草:資料そのもの(一次情報)の公開だけではなく、紙で所蔵する外国教科書の書誌のデジタル化外部サイトを進めたり、国語の教科書の目次情報の作成外部サイトを始めたりしました。

鈴木:出勤ができなくなったときには、部門を超えて目次作成作業をお願いしたりしましたね。

江草:一般の方の目を惹きやすいのは、一次資料、特にカラー画像の公開ですが、遠隔で資料の有無や内容を確認できる書誌や目次情報の充実は、図書館関係者からは喜ばれましたね。

NDL:連携機関として、また利用者として、NDLサーチに対するご要望や期待を教えてください。

鈴木:検索結果の見え方や所蔵機関へのリンクも分かりやすく、便利に使っています。要望したいことは、先にお話ししたように、アクセスログがほしいことくらいでしょうか。

江草:機能面での要望はあまりありません。前は少し検索結果が帰ってくるのが遅かったのですが、最近は速くなって嬉しいです。

NDL:2021年1月にインフラが変わって速くなりました。

江草:また、個人的には、NDLサーチと連携したことで教育図書館貴重資料デジタルコレクションがキーワード検索できるようになったことをアピールしたいですね。貴重資料デジタルコレクションは点数が少ないため、将来のシステムリプレースで、システムのための費用が確保できないなら公開を諦めてしまう可能性もあり、あえてキーワード検索が可能なシステムを導入しませんでした。

NDLサーチと連携することで、Web上に自サイトで公開しているだけの資料群でも、学術情報の流通経路で検索可能になります。このような資料の公開方法があることはぜひ知られてほしいと思います。たった100点ほどの、有用だけど点数が多くない資料群も、1回だけ公開のための予算を準備してWebサーバさえ継続して確保できればデジタルアーカイブとして広く使ってもらうことができるんです。

NDL:資料の検索機能と画像公開機能を備えたシステムを用意するのは大変なことだと思います。連携により、NDLサーチが検索機能を代替できるというメリットは今まで明確にお伝えできていませんので、宣伝していきたいと思います。

本日はお時間をいただきありがとうございました!