王朝を舞台とした絵巻

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第1章 第1節

王朝を舞台とした絵巻

平安王朝を描いた物語や日記を題材とした絵巻では、事件や出来事そのものよりも、登場する人物の心情に主眼を置くものが多く伝わっている。場面ごとに詞書と絵を交互に配し、詞書や和歌に対応する庭の景色や室内の様子なども描き込まれ、様々な要素で人物の感情が表現されている。絵に用いられている技法としては、細い線で目を引き、鼻をかぎのような「く」の字とする「引目鉤鼻」、天井や屋根などを描かず室内を斜め上の視点から俯瞰する「吹抜屋台」等がよく知られている。代表的な作品には、『源氏物語絵巻』『寝覚物語絵巻』などがある。

源氏物語絵巻

1 源氏物語絵詞 和田正尚 模写 明治44(1911)年 ※原本は平安末期の成立【ん-98】

帝の子である光源氏が、母の面影を求めて心を交わした多くの女性との関わりを中心に、その生涯を綴った物語です。
幼少期に母を亡くした彼は、父の妻であり継母にあたる藤壺に恋をし、子をなしてしまいます。父である桐壺帝は自分の子と信じ、子は後の冷泉帝となります。その一方で、光源氏は藤壺に似た少女・紫の上と出会い、理想の女性に育てて結ばれます。しかし、紫の上を正妻にすることは叶いません。代わりに、朱雀院の皇女・女三宮を正妻として迎えますが、息子夕霧の友人である柏木が女三宮に恋をし、二人の間に薫が誕生します。成長した薫もまた、恋に苦しむ人生を送ります。理想的な男性である光源氏と様々な女性を描いたこの物語は、宮中で大変な人気を博しました。

東京1期(10/1~12) 展示箇所は、出家したいと女三宮が泣いている場面(源氏物語 巻36 柏木 第1段)。
女三宮が生んだ子の父は、光源氏の親友である頭中将の息子であり、夕霧の親友でもある柏木だった。

東京3期(10/28~11/9) 展示箇所左は、女三宮の出産した薫を光源氏が見つめる場面(源氏物語 巻36 柏木 第3段)。
展示箇所右は、柏木が遺言する場面(源氏物語 巻36 柏木 第2段)。

関西(11/15~29) 展示箇所は、病に伏せる紫の上を光源氏と明石中宮が見舞い、歌を詠み交わす場面(源氏物語 巻40 御法)。

東京2期(10/15-26) 展示箇所左は、匂宮が琵琶を弾いて恋人である中君を慰める場面(源氏物語 巻49 宿木 第3段)。
展示箇所右は、六の君と匂宮が迎えた結婚三日目の朝の場面(源氏物語 巻49 宿木 第2段)。

紫式部日記絵巻

2 紫式部物語繪卷 [江戸後期]写  ※原本は鎌倉時代の成立 【寄別1-4-5】

『紫式部日記』に書かれた出来事を絵巻にしたものです。藤原道長の娘である彰子が敦成親王(後の後一条天皇)を出産したときの祝儀の様子が描かれ、当時の華やかな様子がうかがえます。絵巻には、敦成親王の誕生50日を祝う「五十日いかの祝い」の場面や、貴族が酔ってたわむれる酒宴の場面、隠れていた紫式部と宰相の君が道長に見つかり、祝いの和歌を詠むよう迫られる場面など、全部で5場面が描かれています。

鎌倉時代に成立した絵巻の白描による写し。平安時代の伝統的なやまと絵同様、引目鉤鼻と呼ばれる類型的な描き方が見られるが、成立当時に流行していた似絵の手法で写生的に描かれた人物の個性や表情なども、細かく写し込まれている。

東京1期(10/1~12) 展示箇所左は、「五十日の祝い」の場面。展示箇所右は、酒宴の場面。

寝覚物語絵巻

3 ねさめ物語古摸本 書写年不明 ※原本は平安時代の成立 【本別7-566】

源氏の大臣の娘、中の君(寝覚の上)は、姉の結婚相手である中納言と契ってしまいます。のちに中納言の叔父の妻となった寝覚の上は、夫の死後、帝(のち冷泉院)に求愛されますが、これを拒みます。寝覚の上は自らが死んだと偽り姿を消しますが、中納言との息子「まさこ」が皇女との恋愛を巡り窮地に陥ると、冷泉院に文を送ります。冷泉院は「まさこ」を許し、寝覚の上に思いを馳せます。

『寝覚物語絵巻』は、王朝物語『夜半のねざめ』に基づく絵巻である。絵と詞書、各4段のみの残欠ではあるが、中間および末尾が失われている『夜半のねざめ』の末尾を補うものと推定されている。

東京3期(10/28~11/9) 展示資料は原本の絵4段を前半に、詞書4段を後半にそれぞれまとめて写す。

なよ竹物語絵巻

4 弱竹物語 正恭ほか写 江戸時代 ※原本は鎌倉時代の成立【す-49】

ある年の3月頃、宮中花徳門内の庭で蹴鞠の会が開かれました。見物に来た女房を、帝が見初めます。帝の使い主に、女房は「くれ竹の」と伝えます。これは「たかしとて なににかはせん くれ竹の 一夜二夜の あだのふしをば」という古歌の一節で、「あなたの身分が高くても、ほんの一時の寵愛が何になるでしょう」という断りの返事でした。
実は彼女は、三条白川に住む少将の妻でした。夫の意向により、女房は帝のもとに向かいます。夫は中将となり、口の悪い人々は彼を「若い女=わかめ」のおかげで出世したとして、わかめの産地にちなみ「鳴門の中将」と呼ぶようになりました。

『なよ竹物語』は『鳴門中将物語』としても知られる。鎌倉時代の説話集『古今著聞集』巻第8第331話に後嵯峨天皇の逸話として、同内容の物語が収録されている。

東京2期(10/15-26) 展示箇所は、思いかなった帝が女房と対面する場面。時期は旧暦5月の夏至近い頃。前栽には夜露が置き、蛍が飛び交い、夏の風情を表している。

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参考文献

王朝を舞台とした絵巻

このページは企画展示「ひろげて、まいて、あらわれる 絵巻の世界」の電子版コンテンツです。

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