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絵巻の印刷

NDLギャラリー > 絵巻の世界 > 絵巻の世界(電子版)

第2章 第5節 絵巻の周辺2

絵巻の印刷

これまで見てきたように、多くの絵巻が手書きにより写され、伝えられてきた。しかし、印刷により、多くの部数が作られた場合もある。その目的は、寺社による絵巻を用いた布教のため、学術研究のため、あるいは販売することで貴重な絵巻を手元に置きたいという人々の希望をかなえるためと様々であった。
室町時代の明徳2(1391)年には、「融通念仏縁起」(鎌倉時代成立)の木版本が絵巻の形態で作られ(明徳版本)、印刷史において重要な作品として残っている。江戸時代後期に多色刷りの木版画の技術が確立すると、その後多色刷りの絵巻の版画も登場し、明治後期のモノクロの写真印刷、現代の精細なデジタル印刷と、その時代ごとの高度な技術で印刷されてきた。今回の出展資料のほとんどを国立国会図書館デジタルコレクションで見ることができるのも、複製技術の成果のひとつと言えよう。

三十六歌仙絵巻

54  三十六歌仙繪卷  土屋秀禾 刊 明治34(1901)年【亥-197】 ※佐竹本三十六歌仙絵巻の複製

三十六歌仙を略歴と代表歌と共に描いた絵巻。展示資料は、秋田藩主佐竹家に所蔵されていたものの木版による複製版。明治34(1901)年に土屋秀禾つちやしゅうかが出版したものと大正11(1922)年に土橋嘉兵衛つちはしかへえらが出版したものである。
佐竹家所蔵本は鎌倉時代の作とみられ、佐竹本とも呼ばれる。佐竹本は大正8(1919)年、現在の貨幣価値で数億~数十億円で売りに出されたが、高額のため買い手がおらず、やむなく各歌仙図と下巻冒頭の住吉明神図を37枚に分断。個々に価格をつけ、著名な財界人など37人がくじ引きで決めた図を購入した。
展示資料のうち土橋嘉兵衛らが出版したものは、分断に際して田中親美たなかしんびが原本の記録として製作した100点中の1点と思われる。また、両展示資料は、各歌仙図の構図は共通するものの配置が異なる。

三十六歌仙繪卷 [1]

三十六歌仙繪卷 [1]

東京1期(10/1~12)斎宮女御。36人中唯一の皇族。そのため、唯一、畳の上に描かれた。切断時は最高額がついた。

三十六歌仙繪卷 [1]

東京2期(10/15-26)小大君。三条院が東宮時に女蔵人をつとめた女官。切断時は三番目に高額。

三十六歌仙繪卷 [1]

東京3期(10/28~11/9)小野小町。36人中唯一、顔が描かれておらず、その美貌を想像させられる。切断時は二番目に高額。

三十六歌仙繪卷 [1]

三十六歌仙繪卷 [1]

三十六歌仙繪卷 [1]

三十六歌仙繪卷 [1]

関西(11/15~29)紀貫之(右)と伊勢(左)。紀貫之は文字が江戸時代、狩野探幽の補筆のため、切断時は最も低額。伊勢は切断時、四番目に高額。

55 三十六歌仙絵巻 田中親美 編 土橋嘉兵衛[ほか] 刊 大正11(1922)年 【わ091-172】 ※佐竹本三十六歌仙絵巻(京極良経 詞, 藤原信実 画)の複製

(デジタル画像はありません)

北野天神縁起・源氏物語絵巻

明治半ば以降、写真と印刷の技術向上に伴い、美術品を撮影して印刷し、出版できるようになった。展示資料「北野天神縁起」は、明治35(1902)年の出版で、写真を用いて印刷・出版された絵巻としては、ごく初期のものと言ってよいだろう。北野天満宮千年祭に際して、美術写真を専門としていた岡崎一直が撮影、宮司の吉見資胤よしみすけたねが出版し、関係者に配布したものと思われる。
そのほぼ100年後の平成15(2003)年に刊行された展示資料「源氏物語繪巻」は、当時保存のために段ごとの絵と詞書に分断されていた徳川美術館と五島美術館所蔵の原本を、継ぎのない一枚の紙に原寸大で印刷している。

56 北野天神縁起 吉見資胤 刊 明治35(1902)年 【す-29】

57 源氏物語繪巻 [藤原隆能] [画]ほか 丸善 平成15(2003)年 【YR1-H6】 ※徳川美術館, 五島美術館蔵の複製

(デジタル画像はありません)

参考文献

絵巻の印刷

このページは企画展示「ひろげて、まいて、あらわれる 絵巻の世界」の電子版コンテンツです。

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